トラスコ中山の基幹物流センター「プラネット埼玉」見学記録 ~自動化と人の働きやすさが追及された物流センター~

  • 2024年2月2日

[最新の更新内容]2024/1/28 プラネット埼玉の紹介動画へのリンクを追加しました。

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トラスコ中山株式会社様(以降、トラスコ中山とさせていただきます)の、関東の基幹物流センターである「プラネット埼玉」を見学させていただく機会に恵まれました。物流周りに積極的な投資を行われており、最新のマテハンやロボットを様々と導入し活用されていることで業界内でもよく知られたセンターです。とても面白かったので、見学してきた内容と感想をお伝えしたいと思います。なお本記事では、マテハンやロボットの具体的な内容よりも、それらを活用されるにあたってのトラスコ中山の考え方やポリシーの方に着目していきたいと思います。マテハンやロボットについては別記事にてよりこってりとお伝えできるかと思いますので。

トラスコ中山について簡単にご紹介

トラスコ中山は工具や工場用副資材の卸売業者です。エンドユーザーに直接は商品を販売されていないそうなので、あまりよく知らないという方も多いかもしれません。アスクルや大塚商会、amazon、モノタロウ、またホームセンターなど、私たちが買い物をする事業者に、トラスコ中山から商品が卸売されています。取り扱いアイテムはなんと276万SKUに上るそうです。売上高は連結で約2300億円(2021年12月期)。

トラスコ中山 ビジネスフロー

出展:トラスコ中山ホームページ

トラスコ中山の会社概要 https://www.trusco.co.jp/company/outline/

筆者は実は、自宅で家具としてトラスコ中山の「ツールワゴン」を使っています。キッチン、リビング周りの色々な物を載せるのに便利で、もう10年くらい使っている愛用品。シンプルだけど美しいデザインで、丈夫で耐荷重もしっかりあり、キャスターも大き目でスムーズに動く、まさに機能美も兼ね備えた名品だと思います。なんと発売から40年くらい経つようです😯

TRUSCOツールワゴン
TRUSCOツールワゴン上から

トラスコ中山はとてもユニーク・・・だけど、聞けばなるほどの納得感がある

「在庫は成長のエネルギー」 ロングテール商品でも在庫を保有し、プラネット埼玉の在庫は50万SKUに

商品の在庫についての一般的な考え方は、売れない商品は在庫したくない、売れる分だけ在庫して回転率を重視する、というようなものだと思います。トラスコ中山のポリシーはこれと全然違って、「在庫はあると売れる」と考えてロングテール商品でも積極的に在庫されるそうです。そのためプラネット埼玉にストックされる在庫は実に50万SKU。年に1回しか売れない商品(例えば、工事現場などで使われる赤い安全コーンの、高さ2メートル以上のものなんかがあるそうです。街では見たことないですね😯)でも、季節外れの商品でも在庫されるそうです。

在庫回転率ではなく、「在庫出荷率※」を重視されています。
※在庫出荷率=注文の内の何%を保有していた在庫で対応することができたか
ずーっと継続的に在庫出荷率が上がっていて、直近では91.3%。

トラスコ中山 売上と在庫出荷率の推移出展:トラスコ中山ホームページ

トラスコ中山なら必ず在庫がある、という状態を維持することで顧客からの信頼を得られている、ということですね。在庫があるということは納期が明確で短くもなるでしょうし、顧客には明らかにメリットが大きいですね。またトラスコ中山にとっても、在庫が無いと納期等の調整で仕入れ先および顧客とのコミュニケーションが色々と発生するため手間が多くコストがかかります。在庫で対応できる注文の割合がどんどんと大きくなっていくにつれて、担当される人員の残業も減っていったそうです。なるほど🧐

数値目標ではなく「能力目標」、何ができる企業になりたいか、を掲げる

一般的にビジネスの目標というと売上や利益、特に物流であれば生産性やコストといった数値目標が設定されることが多いと思います。トラスコ中山では、数値目標よりも「能力目標」を重視されているということでした。お客様や社会に貢献するためにどんな能力を備えていたいか、という内容で、現在は11の目標が設定されています。能力に着目することで何をすべきかがクリアになって、そして実際に行動することがよりはっきりと促される環境になりそうで、そこがよさそうだなと感じました。
11の内、6つには物流に関わるキーワード(黄色くハイライトした部分)が含まれていました。

トラスコ中山の能力目標

プラネット埼玉で稼働するマテハンやロボットをご紹介(一部)

センター内部の見学に行く前にトラスコ中山の方がおっしゃいました。センター内での写真撮影は・・・どうぞご自由になさってください、と。何か参考にしていただけたら幸いだし、ご意見やアイデアをいただけるなら本当にありがたい、というお考えでした。オープンな感覚がすごく素晴らしいしありがたいです👍👍👍 従業員の方など人が写真に映ることだけは避けてくださいとのことでした。
すごく沢山の種類があった中から、特に関心が高かったものを中心に簡単に紹介させていただきます。AutostoreやRangerGTPなどメジャーな物流ロボットについてはよろしければそれらをより詳しく取り上げた別記事もご覧ください。

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[最新の更新内容]ソリューションの紹介にラピュタASRS、Airrobを追加しました。 ———————————…

Autostore

Autostoreがプラネット埼玉の業務にもっともフィットする、基幹となるソリューションとのことでした。この点は後ほどもう少し詳しく触れたいと思います。

上部から見た様子

 

Butler(現在はRangerGTP)

トラスコ中山センター見学 -Butlur-

バケット自動倉庫

Mujinのパレタイズロボット

比較的新しく実験的に導入されているそうです。センターの稼働時間が長くないためまだ費用対効果は十分とは言えないそうですが、稼働時間を長くできれば改善できる見込みだそうです。

両端にランプが光っていて、ロボットだけが黙々と作業を続けている様子が近未来っぽい。

standard-robotsのAMR

元々はAGVを使われていたそうですが、荷物が多い時などは一時的に通路に逃がすと運用しやすかったりするため、決まったルートだけを通るAGVよりも、自律的にルートを見つけて動くAMRの方がフィットすると考えられました

フリーロケーションで高密度保管のラック

棚割が非常に細かくて、びっしり荷物が詰まっています。

フリーロケーションで高密度保管のラック

ラック間の天つなぎに設置された照明

これはよいアイデアだなと思いました。照明は天井に付くのが一般的ですが、そうするとラックのレイアウトによってはラックが邪魔で光が届きにくい場所ができてしまうかもしれません。また、天井からだとラックや床面まで距離があるため照度の高い(コストも高い)照明が必要になります。

物流倉庫のラック間の照明

ラック間の天つなぎに照明を設置することで、どのようなレイアウトでも、ラック間の通路およびラックの間口面に遮る物なく光を届けることができます。作業場所との距離も近いので照度を抑えた(コストも低い)照明でも対応できるようになります。そして、人が通る時だけ自動的に点灯するようになっており、効率と省エネを追及された素晴らしい工夫だと思います。アイリスオーヤマと協力して開発されたとおっしゃっていました。
アイリスオーヤマでソリューションされていて、省エネ大賞も受賞されています。

アイリスオーヤマ ラック専用LED照明紹介ページ

Youtubeのトラスコ中山公式チャンネルにある、プラネット埼玉の紹介動画も合わせてご覧ください。

なぜここまで沢山のマテハン、ロボットを導入したのか?プラネット埼玉は「実験場」だった

一通りセンターを見学した後、質疑応答の時間がありました。見学したセンターそのものに関する内容から、人材育成や情報システムまで、様々な質問がありそれらにトラスコ中山の方が丁寧に答えてくださりました。

その中で特に印象に残ったのが、プラネット埼玉では、実はあえて多様なマテハンやロボットを使っていて、その経験を通して本当にトラスコ中山の業務にフィットするものを選定することが目的だった、実験場としての意図があった、という点でした。

例えばAutostoreとRangerGTPでは、フィットしていると思われるアイテムやプロセスに似通った部分があり、どちらを適用するかは人によって判断が分かれることもあったそうです。実際の業務で試して、その結果を確認して運用を改善して・・・という経験を通して、本当に最適なものを選んでいく、というアプローチですね。結果として、先にも少し触れました通りプラネット埼玉の業務にはAutostoreがよくフィットするという手応えを得られたそうで、今後設立される中部エリアの基幹センターではAutostoreが中軸を担い活用範囲が広がる見込みだと話されていました。(なお、RangerGTPとAutostoreの優劣ということではなく、どちらがより向いているか、合っているか、という観点で、このケースではAutostoreがそうだったというお話でしたので、補足しておきます。)

すごいバラエティーの機器を使われていて、なぜなんだろう、すごく複雑そう、これが最適なのかな・・・と思っていたので、そのお話を聞いて合点がいきました。AGVをAMRに置き換えたり、新しくデバンニングロボットを投入したりと継続的に新しい実験も重ねられています。

この、「実際に使ってみる」というアプローチ、踏ん切りの良さともいえるかもしれませんが、ロボットの活用やDX推進にいち早く取り組んで差別化の要因としていくためには必要な性格のひとつではないかと思います。アスクルの講演を聞いた際も、小さな範囲でもいいからとにかく自動化を進めてみる、とおっしゃっていました。○○してみる、試す、というのが共通の感覚と思います。

ソリューション導入前にはユーザーとプロバイダーとで協力して導入効果を試算するでしょうが、おそらく楽観~悲観の幅のある結果になって、合理性や確実性だけでは意思決定できないかもしれません。とにかく導入の意思決定をしてしまった後、運用を始めてから運用改善を重ねてパフォーマンスが上げられた例も多く耳にします。ロボットソリューションのプロバイダーがカスタマーサクセスの手厚さを謳う背景はその辺りになると思われます。

もちろん無理はいけませんが、無理のない範囲であればとにかくやってみる! 小さなことから始めてみるというのはぜひ参考にしたいスタンスと思いました。投資経験がないけど、失敗してゼロになっても平気な金額でまずは投資を始めてみる、というのと似ているような気がします(たぶん?🤔)。

そのトライに携わる人の経験、知見も蓄積されて、いわゆる高度人材を育成するきっかけにもなるはずです。トラスコ中山の方も、あらゆる苦労をされたとおっしゃっていました。あっさりとおっしゃったというよりは、本当に苦労されたんだな・・・という感情が込もっていると感じました🤢。ですが、その苦労を乗り越えられた経験・知見は、以降のセンター運営や新センターの構築にしっかり活かされています。

マテハンやロボットが沢山・・・でも、人を重視して、人に優しい物流センターと感じられた

最後に、わりとロボットやDX寄りの感想を述べてきたのに急になんだと思われそうですが、筆者が今回、トラスコ中山のプラネット埼玉を見学して強く感じたのが、人に優しいセンターだなぁということです。

人に負担の少ない仕事になっている

業務の自動化、省力化が進められているので、一般的な物流センターに比べて、重たいものを持つ、歩いて移動する、人の目で正否を判断する、といった心身への負担の大きい作業が少なくなっているはずです。

在庫を幅広く持つことで在庫で納品できる、メーカーからの仕入れして納品の調整をするよりも事務の手間が減って残業も減った、ということに前に触れましたが、これも人の負担が軽減された例と言えます。

トラスコ中山の方はすごく忙しいとはおっしゃっていたので、忙しさはまた別でしょうが・・・😅 無用な負担はできるだけ少なくされている中で、もっと質の高い業務にしようというチャレンジには積極的で、そのやりがいは大きい、モチベーションも高い、そういう環境ではないかと思います。

働きやすい環境が整えられている

プラネット埼玉はセンター内に託児所があり、小さなお子様がいる方でも働きやすくなっています。見学させていただいた際はちょうどお昼寝中で消灯されていました🤫

トラスコ中山センター見学、託児所

食堂も完備。広くてキレイです。ランチの補助金制度があってかなりお得に食べられるそうです。ここで働くと激務でも増量してしまう方が多いとか😂 食堂では3人の方が勤務されていました。センター内でも最も生産性の高い場所なんだそうです👍この方々も食堂のお仕事が落ち着くとセンター内の別業務にヘルプで入られるそうです。助け合いのマルチタスクいいですね🙌

トラスコ中山センター見学−食堂−

見学にお邪魔したころのメニュー。メインはトンカツ→鯖→チキン→鱈と、お肉とお魚が交互でバランスよさそうです。

トラスコ中山センター見学−食事メニュー−

従業員の皆様が元気に働かれている、挨拶も気持ちが良い

センター見学の間にすれ違う従業員の方々はみんな、すごく気持ちのよい挨拶をしてくださいました。動きもキビキビされていて見ていて気持ちがよかったです。「なぜあんなにしっかり挨拶できるのですか?どういう教育をされていますか?」という質問があったほどです。特別なことはされていないというお話でしたが、ここまで触れてきたように全体的によい環境が整っており、満足して働かれている、それが態度や行動に現れているのかなーと感じました。

社員の方のプレゼン、見学案内が素晴らしい

最後に、今回の見学会にはトラスコ中山の社員の方2名がアテンドしてくださいました。この方々も素晴らしかったです。プレゼンテーションがすごく上手、センター内の案内も丁寧にしてくださって、そして質疑応答では、先ほども触れたようにバラエティーに富んだ質問があったのですが、そのどれにもスパスパと淀みなく、かつじっくりとわかりやすいお話をしてくださいました。細かな現場のことから、センターのマネジメント、また会社全体のこと、そして人のことから機械やシステムのことまで、縦横無尽にカバーされていてなおかつコミュニケーション能力が高い・・・すごいレベル高いなーと感心してしまいました。

余談ですが、お話の要所(苦労したことや笑えることなど、強調の置かれていそうなポイント)が関西弁風だったので、お二方とも関西出身、筆者の仲間かなと思っていたんですが・・・お一人だけでした😅

本当に内容の濃い、面白いセンター見学でした。そんなことまでお願いできないですが、例えば子供たちが見学できる機会があると、物流という仕事に興味を持ってもらうきっかけにもなりそうです。

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トラスコ中山センター見学 -Butlur-
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