高まる脱炭素化の機運、物流業界が取り組むべき課題は?|2050年カーボンニュートラルに向けて

  • 2024年4月11日

年々、気候変動による地球環境の変化が大きくなってきています。毎年報道される過去最高気温の更新、嵐による被害の拡大、植生や漁獲内容の変化など、我々の身近なところで直接的にその影響を受けることも増えました。気候変動対策は今、世界が一丸となって取り組むべき最も重要な課題です。

環境省は「2100年 未来の天気予報」を公開しています。産業革命以前からの気温上昇を1.5℃に抑える目標を達成できなかった場合の2100年の日本の天気予報です。東京43.3℃、札幌でも40.5℃を記録しています。かなり暑いですね🥵

2100年未来の天気予報」

2100年未来の天気予報「1.5℃目標」未達成・夏(環境省)

世界各国が、あらゆる分野・業界で気候変動対策に取り組まないと、この未来が現実化します😱

物流分野はとりわけ多くのCO2を排出する分野のひとつで、脱炭素に向けて大きな役割を果たす必要があります。道路貨物業界は、世界のCO2排出量の7%を占め、年間500万バレル(約7億9500万リットル)以上の石油を消費しています(EV magazine, Jan 04, 2024)。

この記事では、日本の脱炭素への取り組み動向とその周辺知識を把握し、物流業界が脱炭素社会の実現に向けて取り組むべき具体的な課題を知ることを目的とします

目次

世界共通の目標は2050年までにカーボンニュートラルを達成すること

カーボンニュートラルへの取り組みは世界中で行われており「2050年までのカーボンニュートラル」を宣言している国は日本を含め、147カ国にのぼります。また2070年までの宣言国を含めると158カ国となります(2023年5月時点)。世界全体のCO2排出量に占める割合の89.5%の国が宣言していることになります。

カーボンニュートラル表明国マップ(経済産業省サイトより)

気候変動対策のために世界中の科学者と専門家により組織された国際機関である、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:国際気候変動に関する政府間パネル)は、2018年に発表した「IPCC 1.5℃特別報告書」において、地球の平均気温の上昇を産業革命前の水準と比較して1.5℃以下に抑えることで(2℃ではダメ🙅)、気候変動のリスクを大幅に低減でき、そのためには2050年までにカーボンニュートラルを達成する必要がある、と報告していす。また合わせて、この目標を実現するためには、エネルギー、土地、都市及びインフラ(運輸と建物含む)、並びに産業システムにおける、急速かつ広範囲に及ぶ移行が必要となるであろう、と警告しています。

IPCCは、2023年3月に第6次評価報告書を発表しており、「第1作業部会報告書 政策決定者向け要約」にて、将来の地球温暖化の進行度合いによって、「陸域における極端な高温」「陸域における大雨」「乾燥化地域における農業及び生態学的干ばつ」のそれぞれの極端現象(ゲリラ豪雨、スーパー台風、竜巻、爆弾低気圧など災害を引き起こす可能性がある激しい気象現象の総称)の頻度と強度を予測しています。

地球温暖化が更に進行するにつれ、極端現象の頻度と強度に予測される変化が大きくなる‐IPCC-AR6-WG1報告書-政策決定者向け要約(2022年12月22日版)より

IPCC-AR6-WG1報告書-政策決定者向け要約(2022年12月22日版)より

現在でも十分に増えている異常気象による災害が、温暖化が進むにつれて、頻度も強度も上がっていくさまがリアルに見て取れます、恐ろしいですね😱 なるべく早期にカーボンニュートラルを達成することが世界共通の目標です。

カーボンニュートラルとは

カーボンニュートラルとは、CO2をはじめとする温室効果ガスの排出量から吸収量を差し引いて、炭素排出量を実質ゼロにすることです。温室効果ガスには、CO2だけではなく、メタンや一酸化二窒素なども含まれます。牛のゲップにはメタンが含まれており、これが深刻な温室効果ガスの一因になっていることを聞いたことがある人もいるでしょう🐄

脱炭素ポータルより

道路貨物業界での炭素排出は当面やむを得ない

化石燃料を直接燃やして炭素を大量に排出する火力発電は、なんと日本の電力構成の72.7%を占めています(2022年)。しかし火力発電は、安定電源として、また再エネ発電の変動の調整力としても重要ですので、当面はこれをなくすことはできません。

道路貨物業界において、貨物トラックを電動車(EV)や水素燃料電池車(FCV: Fuel Cell Vehicle)に置き換えて、輸送中の炭素排出を無くす取り組みが行われています。しかし、航続距離の短さやコスト、水素供給インフラ整備などの課題があり、長距離輸送はしばらくディーゼルトラックに頼る必要があります。現段階では貨物を運ぶには、炭素を排出せざるを得ません。

つまり、カーボンニュートラルを実現するためには、炭素排出を無くすだけではなく、炭素を吸収・貯留することも必要になります。排出してしまった炭素を吸収・貯留するには、次のような方法があります。

  • 植林:新たに木を植えることにより、大気中のCO2を吸収する
  • 森林保護、持続可能な森林管理:森林のCO2吸収能力を維持、向上する
  • 湿地、草原の保全・復元:湿地や草原は大量の炭素を蓄えています
  • 直接大気中炭素回収(DAC : Direct Air Carbon Capture and Storage ):直接大気中からCO2を捕捉します。CCSと違い、大気中の低濃度のCO2を回収できます
  • 炭素の捕捉および貯留(CCS : Carbon dioxide Capture and Storage):産業施設や発電所から排出される高濃度のCO2が含まれる排ガスから、CO2を捕捉し地下に長期的に貯留する
  • 炭素の捕捉および貯留・利活用(CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage ):CCSと同様にCO2を捕捉・貯留することに加えて、それを資源として利用する

これらの方法は一例で、他にも海藻を栽培することでCO2を吸収したり、稲作における水抜き期間を調整することで水田から発生するメタンを減らしたりなど、様々な方法が次々と開発・導入されています。

このようなプロジェクトをカーボンクレジットとして認証し、炭素の排出を経済的な負担に、そして炭素の吸収・貯蓄は経済的なインセンティブに置き換えて、社会全体として炭素排出量を実質ゼロにするわけです。

カーボンプライシングとは

カーボンプライシングは、炭素の排出にコストを付与する政策手法で、炭素排出の経済的なインセンティブを通じて、排出削減を促進することを目的としています。主な形態は炭素税とカーボンクレジットです。

炭素税は排出する炭素に応じて課税する方法です。
日本では炭素税として「地球温暖化対策のための税」が2012年10月に導入されており、化石燃料の輸入者が納税しています。C02排出1tにつき289円の税負担で、間接的に化石燃料の使用者に広く公平に負担されています(世界各国と比較すると、日本の炭素税率はかなり少額です)。
炭素税により、炭素排出コストを明確にし、化石燃料の使用を減らすインセンティブとなります。

カーボンクレジットは、炭素を吸収・貯留するプロジェクトによる炭素排出削減量をクレジット化し、それを企業間で取引できるようにする仕組みです。これにより、物流企業を含む、やむを得ず炭素を排出する企業が、間接的に炭素排出に対して経済的な負担することができ、企業単位のカーボンオフセットが実現します。

日本ではJ-クレジットが導入されており、その認証量は2023年度で936万t-CO2、2030年目標は1500万t-CO2となります(J-クレジット制度について(データ集) 2024年1月)。上記で紹介した、水田の水抜き期間を増やすことでメタンガスを減らすプロジェクトもクレジット化されており、これが300億円以上の価値を生むという試算があるそうです。

大きな技術革新が起こらない限り、ディーゼルトラックをベースとした道路貨物運送は化石燃料に依存せざるを得ず、物流企業の多くは炭素を排出する側になります。つまり、近い将来、物流企業は炭素排出量に応じて炭素税を払い、カーボクレジットを購入することになっていきます。

日本のカーボンニュートラル・脱炭素への取組状況

日本は2021年10月22日に閣議決定された地球温暖化対策計画において、「2030年度に温室効果ガスを46%削減(2013年度比)を目指すこと、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けること」を表明しています。この目標を達成するために日本はどのような取り組みをしているのでしょうか。まずは、日本の現状のCO2排出量の構成を確認しましょう。

日本におけるCO2排出量構成

以下の円グラフは、2021年度の日本のCO2排出量の内訳です。全体で約10億6400万t排出しています。エネルギー転換部門が最も多く40.4%、産業部門が25.3%、運輸部門が16.7%と続きます。エネルギー転換部門は、石油や石炭、天然ガスなどを電力に変換する火力発電所などが含まれます。また産業部門は製造業や鉱業、建設業などが含まれます。火力発電や製鉄プロセスで大量の化石燃料を燃焼させて、CO2が大量に排出されていることは容易に想像がつくでしょう🔥
これらに続くのが、運輸部門です。実に1.8億tのCO2を排出しています。

日本の部門別二酸化炭素排出量の割合

全国地球温暖化防止活動推進センターより

 

日本のカーボンニュートラルへの取り組み:2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略から物流業界に関わるものをピックアップ

日本のカーボンニュートラルへの取組みは、2020年12月に経済産業省が中心となり関係省庁と連携して策定された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」に沿って進められています。この特設サイトには

産業政策・エネルギー政策の両面から、成長が期待される14の重要分野について実行計画を策定し、国として高い目標を掲げ、可能な限り、具体的な見通しを示しております。また、こうした目標の実現を目指す企業の前向きな挑戦を後押しするため、あらゆる政策を総動員しています。

とあります。14の重要分野は「エネルギー関連産業」、「輸送・製造関連産業」、「家庭・オフィス関連産業」、「企業の前向きな挑戦を後押しする政策ツール」に分類され、それぞれの分野に「主な今後の取り組み」と「2050年における国民生活のメリット」が記述される構成となっています。先端技術の開発から税制改革まで様々なアプローチによる戦略が策定されています。これらの戦略のうち、物流企業が意識するべき、物流、自動車、企業経営全般に関わる部分をピックアップします。

「自動車・蓄電池産業」分野

電動車、蓄電池、充電・充てんインフラにおける各目標が定められ、その推進に向けた政策パッケージを展開するという内容になっています。
乗用車については、2035年までに新車販売で電動車100%ですが、貨物トラックが該当する商用車>大型車については、2030年までに5,000台の先行導入と2040年の目標を設定するとなっており、最終目標はまだ具体化されていません。
設定されている各目標を表にまとめました

日本の電動化、蓄電池、充電・充てんインフラ目標

蓄電池の目標に「GWh」という馴染みがない数値がありましたので、把握しやすい数値に換算しました。
車載用蓄電池の製造能力目標として設定されている100GWhは、60kWhのバッテリーを搭載する電気自動車(EV)にして、約167万台分に相当します。 ​​
蓄電池累計導入量の24GWhは、約42万世帯が1週間に使用する電力量に相当します。この計算は、日本の家庭の平均的な年間電力消費量:約3,000kWhを基にしており、蓄電池の累積導入量の目標がどれだけの家庭のエネルギー需要をカバーできるかを示しています。 ​​

この分野では、2050年における国民生活のメリットとして“「動く蓄電池」を社会実装する”が挙げられています。EVを単なる移動手段にとどめるのではなく、社会全体の蓄電機能として活用する意図が感じられます。

「物流・人流・土木インフラ産業」分野

物流に関連する取り組みとして、以下が挙げられています。

  • 高速道路利用時のインセンティブを付与し、電動車の普及を促進する
  • ドローン物流の本格的な実用化・商用化を推進する
  • 2025年、「カーボンニュートラルポート形成計画(仮称)」を策定した港湾が全国で20港以上となることを目指す(この計画には、コンテナ用トラクターヘッドのFCV(燃料電池自動車)化、水素ステーションの整備も含まれる)
  • 空港の脱炭素化、航空交通システムの高度化を推進する

「金融」分野

企業経営全般に関わる取り組みとして、「サステナビリティに関する開示を充実する」が挙げられており、「プライム市場上場企業に対し、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD: Task Force on Climete-related Financial Disclosures)等の国際的枠組みに基づく、開示の質と量の充実を促進」が掲げられています。TCFD提言では、気候変動対策について、4つの枠組み「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」に沿って開示することを求めています。
プライム市場上場企業は既にその開示が義務化されており、
各社が有価証券報告書にて、その内容を開示しています。
開示例は金融庁にて公開されており(
有価証券報告書におけるサステナビリティ情報に関する開示例)、物流企業であるAZ−COM丸和ホールディングス株式会社の開示例も参照できます。

Az-com丸和ホールディングス有価証券報告書2022年3月期P16-18、TCFD例‐1

Az-com丸和ホールディングス有価証券報告書2022年3月期P16-18、TCFD例‐2

想定される気候変動リスク・機会の項目ごとに事業活動への影響が具体的に記載されており、EV/FCVの導入、モーダルシフト(鉄道コンテナ、RORO船など)、連結トラック、ドローン輸送やSIPスマート物流についても言及しています。また「④指標と目標」においては、CO2排出量の実績と目標が具体的に示されています。

温室効果ガス排出量の報告は、Scope3(あとで詳しく解説します)を含めた事業活動全体での排出量が求められており、プライム市場に上場していなくとも、委託先である物流企業にも報告が求められることになります。

「規制改革・標準化」分野

「成長に資するカーボンプライシングについて躊躇なく取り組む」とあります。カーボンクレジット取引や、排出量に応じた炭素税などのルールがどんどん導入されることになります。道路貨物業界は、まだディーゼルトラックつまり、化石燃料に頼る必要がありますので、カーボンクレジットによるオフセットや炭素税の支払いは免れません。すべての物流事業者は、この分野の動向を注視しておくべきでしょう。

脱炭素社会における物流企業の課題

脱炭素への要求が高まっていく中で、物流企業は具体的にどんな課題に取り組むことになるのでしょうか。大きく分けると下記に分類されると考えます。

  • 温室効果ガス排出量を把握する
  • トラックから排出される温室効果ガスを減らす・無くす
  • トラックの走行距離の総量を減らす
  • 環境に配慮した物流施設に改善する

それぞれのトピックについて、順番に概説します。

温室効果ガス排出量を可視化する

何かを減らすためには、まず測定することが必要です。節約やダイエットと同じです🐅

プライム市場上場企業は有価証券報告書に、気候変動対策についての指標と目標を示す必要があります。この指標として、多くの企業が「温室効果ガスの排出量」を採用することになるでしょう。
2024年2月には上場企業に、温室効果ガス排出量の開示を義務づける方針が金融庁から発表されています(上場企業に温室効果ガス排出量の開示 義務づける方針 金融庁 NHK NEWS WEB – 2024年2月19日)。
上場企業は、決算報告と同じように、温室効果ガスの排出量を把握し、その情報を公表することが必要な時代になるのです。

これは世界的な潮流です。EUは、2023年より国境炭素税を段階的に導入しており、2026年に完全導入される予定です。今後、EU向けの輸出は、その輸出製品の製造・運搬時にかかった温室効果ガス排出量の報告義務と、その排出量に基づいた課税がされることになります。段階的に導入され、現在、対象になっている商品は、その製造過程で大量の温室効果ガスが排出される製品(セメント、鉄、スチール、アルミニウム、肥料など)となっています。対象は徐々に拡大されていくでしょう。

サプライチェーン排出量(温室効果ガスプロトコルとは)

温室効果ガス排出量はサプライチェーン排出量として把握する必要があります。AZ-COM丸和ホールディングスの有価証券報告書の指標と目標にも「Scope 1・2・3」と記載があります。スコープ1、2、3は温室効果ガス排出量を把握するうえで重要な基準で、温室効果ガスプロトコルで定義された分類概念です。温室効果ガスの排出量を把握するには、事業者自らが直接排出した炭素だけではなく、原材料の調達・製造・物流・販売・廃棄など、事業の一連の流れ全体から排出される炭素を把握する必要があります。

サプライチェーン排出量、スコープ1・スコープ2・スコープ3

グリーン・バリューチェーンプラットフォームより

スコープ1が事業者自らによる温室効果ガスの直接排出、スコープ2が電力会社などの他社から供給された電気・熱などの使用に伴う間接排出です。そして、スコープ3はそれ以外の間接排出となり、ここに物流事業者による輸送・配送が含まれます。つまり、輸送・配送業務を担う物流企業は、未上場で温室効果ガス排出量の報告義務がなくとも、取引先からスコープ3として排出量の報告を求められることになります。輸送・配送業務での温室効果ガス排出量を適切に把握し、取引先に対して報告できるよう準備を始める必要があります。

トラックから排出される温室効果ガスを減らす・無くす

日本の物流は、地理的な特性や商習慣から、トラック輸送が主役を果たしています。国内貨物総輸送量のうち、トラックの輸送分担率はトンベースで9割、トンキロベースで5割を占めます(日本のトラック輸送産業現状と課題2023、全日本トラック協会)。トラックから排出される温室効果ガスを減らし・無くすことで、脱炭素に大きく貢献できます。このアプローチは、いくつかに分類できます。

  • ディーゼルトラックをEVトラック、FCVトラックに替える
  • 燃料をカーボンニュートラル燃料に替える
  • トラックの走行距離の総量を減らす
  • 物流拠点を低炭素化する

ディーゼルトラックをEVトラック、FCVトラックに替える

トラックを内燃機関のディーゼルエンジン車から、温室効果ガスを排出しないEVトラックやFCVトラックに替えることで、脱炭素に貢献することができます。

トラックの電動化はEVよりもFCVが現実的かもしれない

バッテリーは高価でエネルギー密度が低いという欠点があります。長距離を走る貨物トラックに必要なバッテリーは重量もサイズも大きくなり、積載量に影響を及ぼします。
またEVの充電には時間がかかります。筆者は数年前からEVを所有しており、普段から乗っていますが、EVが普及するにつれて、充電待ちをすることが徐々に増えてきていることを実感しています。長距離トラックのための大容量バッテリーとなると、なおさらでしょう。急速充電とはいえ、充電時間も待ち時間もかなり長くなり、トラック専用の充電インフラ整備が要になるでしょう。

一方でFCVの動力源である水素は、高いエネルギー密度を持っているため、長距航続に適しています。液体であるため、エネルギー補給も従来のガソリン・ディーゼル燃料に近い体験をつくることが可能です。ただし、FCV車両は高価で、水素ステーションなどインフラが不足しているという課題があります。

電気や水素には色がある

トラックのEV化によって脱炭素を実現する場合、EV充電の電力供給源の脱炭素化も合わせて対策する必要があります。日本の電力供給は、大部分を火力発電に依存しています。日本全体の電源構成(2022年)をみると、70%以上が化石燃料によるものであることが分かります。いくら走行時のCO2排出量をゼロにしても、充電するための電力を作る段階でCO2を排出していたのでは意味がありません。電源構成を改善し、再生可能エネルギーによるグリーン電力の比率を高める必要があります。

日本全体の電源構成(2022年速報) 出所:電力調査統計などよりISEP作成

日本全体の電源構成(2022年速報)、環境エネルギー政策研究所

水素を燃料として走るFCVも同様の課題を抱えています。
現在、最もコストが低い水素の生産方法は化石燃料を改質して生産する方法で、その生産過程で大量のCO2が排出されます(グレー水素と呼ばれます)。
CCS(CO2を回収し、地下に貯留する)を組み合わせることで、CO2排出量を大幅に削減できるものの、完全にゼロにはできませんし、CCSにはコストがかかります(ブルー水素と呼ばれます)。
一番クリーンな生産方法はグリーン水素と呼ばれ、太陽光や風力などの再生可能エネルギー源を使用して、水の電気分解により水素を生産します。CO2は一切排出されません。ただし、グリーン水素の生産には、高いコストと、再生可能エネルギーの安定供給が課題となります。

水素の生産方法、水素の色

水素の製造方法(岩谷産業)

燃料をカーボンニュートラル燃料に替える

カーボンニュートラル燃料とは、その生産と使用の過程で大気中に新たな炭素を排出しない、オフセットされた代替燃料です。貨物トラックに利用できる代表的なカーボンニュートラル燃料には、バイオ燃料と合成燃料(e-fuel)があります。

バイオ燃料

バイオ燃料はバイオマスから作られる燃料で、バイオディーゼルとバイオエタノールがあります。
バイオディーゼルは、植物油や動物の脂肪から製造されるディーゼル代替燃料で、飲食店などから排出される使用済みの廃食油も活用されます。
バイオエタノールは、トウモロコシやサトウキビなどの砂糖やデンプンを含む植物から製造されるガソリン代替燃料です。

代替燃料とはいえ、バイオ燃料100%で利用するためには、特定のエンジン部品と燃料系統の材料が対策された車両が必要で、極低温を避けるなど、一定の条件下のみで利用できます。またバイオ燃料100%の状態だと、酸化しやすい/揮発しやすいなど、従来の燃料よりも保管状態への要求が高くなります。

バイオディーゼルは軽油に、バイオエタノールはガソリンに、それぞれ混合して使用することもでき、混合された燃料はドロップイン燃料と呼ばれます。ドロップイン燃料の規格は、基礎となる燃料の種類と混合比率によって異なります。バイオディーゼルは、B5(バイオディーゼル5%)、B20(同20%)、バイオエタノールは、E5(バイオエタノール5%)、E20(同20%)などの規格があります。

ドロップイン燃料の利用には、特別なエンジンや燃料供給インフラを必要としません。既存の車両にそのまま給油できて、ガソリンステーションなどのインフラ設備もそのまま使えます。

合成燃料(e-fuel)

e-fuelはDACやCCUSで捕捉したCO2と、水素を化学反応させて合成する液体燃料です。e-fuelはバイオ燃料とは違い、100%でも従来の車両に利用でき、既存の燃料供給インフラもそのまま使えます。ただし、製造コストが高く、ドロップイン燃料として利用するのが実用的な選択肢となります。

2050年カーボンニュートラルの本命はドロップイン燃料

日本の自動車保有車両数は2023年12月時点で約8,300万台(令和5年12月末の自動車保有車両数、国土交通省)。それに対して新、車販売台数は約420万(一般社団法人 日本自動車工業会)。現在のペースで新車が販売されたとして、また新車がすべてが電動車だとしても、すべての自動車が電動化するのには約20年かかります。

EVトラック/FCVトラックが実用化していない現状を考えても、2050年のカーボンニュートラル目標に対しての有効な対策は、車両の電動化よりもドロップイン燃料です。

バッテリー製造時の炭素負荷が高く、車両の電動化によるカーボンニュートラルへの貢献は近い将来は期待できません。

ブラジルのカーボンニュートラル燃料施策がスゴイ

少し話を脱線させてしまいますが、ブラジルのカーボンニュートラル燃料施策を紹介します。
ブラジルでは、サトウキビを原料としたバイオエタノールが広く普及しており、どのガソリンスタンドでも従来のガソリン、軽油に加えて、バイオエタノールのメニューがあり、消費者が行き先やシチュエーション、価格に応じて自由に選んで給油しています。
バイオエタノールの燃費は従来の化石燃料よりも悪化しますが、近年の燃料高により、価格は化石燃料よりも4割ほど安くなっています。

ブラジルの給油ステーション

サンパウロのガソリンスタンド 下から2番目にエタノールがあり一番安い(NHK国際ニュースナビ、2023年10月)

ブラジルで販売される車は、フレックス燃料車という専用仕様になっており、ガソリン100%でも、バイオエタノール100%でも、またどんな比率で混ぜても走ることができます。トヨタや日産、ホンダなどの日本メーカーやフォルクスワーゲンなどの海外主要メーカーもフレックス燃料車を生産しており、ブラジルでのフレックス燃料車のシェアは77%にのぼり、圧倒的です。

サトウキビの生産量で世界一を誇るブラジルならではの施策です。カーボンニュートラル・脱炭素施策は地域特性に合わせて導入するのが肝要であることがわかる事例です。

トラックの走行距離の総量を減らす

次に物流トラックの走行距離の総量を減らすことで脱炭素に貢献する施策をあげてみましょう。これらの施策は、コスト削減や省人化のための施策でもあるので、多くの物流企業が既に取り組んでいます。

物流拠点配置・輸送経路の最適化

物流センターや配送センターの地理的配置を最適化することで、輸送経路の集約や輸送距離の短縮ができます。
市場の変化や得意先の変化によって、最適な配置は変わっていくため、継続的に最適化していく必要があります。一度見直したら終わり、ではありません。

物流拠点の移転や統合には大きな経済負担が伴います。また高速道路のインターチェンジや港湾に近いなど、条件にあう土地が都合よく見つかるわけではありません。マルチテナント型大型物流施設の賃貸を活用するのも選択肢になります。

モーダルシフトの推進

モーダルシフトは長距離輸送の脱炭素に効果的な施策です。トラックよりも炭素排出量が少ない、鉄道や船舶などの輸送方法にシフトすることで、環境負荷を低減する方法です。
トンキロ(1トンの荷物を1キロ運ぶ単位)あたりのCO2排出量は、トラック(営業用貨物車)が216gであるのに対して、船舶は43g(約5分の1)、鉄道は20g(約11分の1)で、輸送方法をシフトすることでCO2排出量を大幅に減らすことができます。

輸送量あたりの二酸化炭素の排出量2021年

(モーダルシフトとは、国土交通省より)

また鉄道や船舶はドライバーの数も大幅に減らすことになるため、2024年問題・ドライバー不足の課題にも有効な施策です。

TMS(輸送管理システム)の導入

TMS(Transport Management System: 輸送管理システム)を活用して、配車管理を効率化し、積載効率を向上させ、車両台数を減らすことができます。TMSは運行中にGPSにより、トラックの位置情報とリアルタイムな交通情報に応じて、動的に最適な輸送ルートを案内することができます。これにより渋滞を回避し、燃費改善も実現します。ファミリーマートはTMSの導入で配送トラックのCO2排出量を13%削減しています(2021年10月、物流PLAZA)。

共同配送

共同配送は複数の荷主が物流リソースを共用し、荷物を一括して配送することで、トラックの台数を減らす取り組みです。この取り組みの究極の姿は、フィジカルインターネットが実現した社会です。フィジカルインターネットについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をぜひご参照ください。

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食品業界は共同配送の導入が特に進んでいる業界です。賞味期限や鮮度が重要な要素であるため高頻度配送の需要が高く、また物流センターから都市部へのルートはどの企業にも共通のニーズであるためです。

サッポログループと日清食品は、重い荷物であるビールと軽量な即席麺を組み合わせた共同配送スキームを確立しています。このスキームにより、重量面と容積面の両方でほぼ100%の積載率を実現し、個別に配送していた従来と比較して、トラック車両数を約20%削減し、CO2排出量を年間で約10トンの削減しました。

重いビールと軽い即席麺を組み合わせた共同配送(サッポロホールディングスより)

貨客混載

貨客混載とは、貨物と乗客を同時に輸送する取り組みで、鉄道や路線バスなど既存の乗客輸送サービスに、貨物を乗せる方式が多く採用されています。貨客混載が行われるのは、以下の乗客輸送サービスです。

  • 鉄道
  • フェリー
  • 路線バス
  • 飛行機
  • タクシー

鉄道とフェリーは上述の通り、炭素排出量の少ない輸送方法でモーダルシフトの一環であるとも言えます。また既存の乗客輸送サービスを活用するため、トラックドライバー不足にも貢献することになります。

佐川急便は、松浦鉄道とともに長崎県佐世保市で貨客混載輸送を実現しています。松浦鉄道西九州線 松浦駅から潜竜ケ滝駅の31Kmの区間です。電動自転車で営業所から松浦駅まで輸送した荷物を、潜竜ヶ滝駅で集荷し、佐世保市北松浦郡に配送します。

松浦鉄道と佐川急便による貨客混載事業の運用フロー

松浦鉄道と佐川急便による貨客混載事業の運用フロー(佐川急便より)

隊列走行(プラトーニング)

隊列走行とは、複数のトラック車両が通信しあい短い間隔で自動的に連なって走行することです。後続車両の空気抵抗を減らして、燃料消費の削減し、渋滞を緩和し、輸送における炭素排出量を減らす技術です。後続車無人隊列走行技術と合わせて取り組まれ、トラックドライバー不足への対策としても期待されます。
※トラックの走行距離の総量を減らすというテーマとは若干ずれますが、一番近いこの分類に含めました

走行ルートの調整の容易さから、自社内やグループ・提携企業内の範囲で、特定のルートや運送計画に対して、実験や実装の取り組みが行われています。個々の取り組みで得られた知見やデータをもとに、社会全体に実装できれば、脱炭素への貢献が期待できます。

異なる企業や組織が所有するトラックのすべてが、行き先や納期情報などの情報を車両同士で通信し、協調して隊列走行するようになる日が来るかもしれません。実現したら異様な光景になりそうです😅

物流拠点を低炭素化する

物流拠点の環境性能を向上させることで脱炭素に貢献できます。物流拠点の環境性能向上には、消費するエネルギーをより少なくすることと、再生可能エネルギーを生産・購入すること、に分類できます。

消費するエネルギーをより少なくする(省エネ)

物流倉庫は、大型の建築物です。運用には空調や照明など多くのエネルギーを使います。マルチテナント型の大型物流施設などの最近の物流施設では、断熱効果の高い外壁、LED照明・人感センサーなどにより、従来の倉庫と比較して、大幅な省エネルギー化が実現されています。

物流ロボットの導入で省エネ実現

電力駆動方式のコンベヤ、ソーターなどで常時コンベヤラインを動かしていた倉庫で、コンベヤラインを小型の搬送ロボット(AGV)に置き換えて、電力消費を40%減らした例があります。以前、こちらのトラロジ記事で紹介しました。

物流ロボットの導入により、常時コンベヤライン稼働させるために使っていた電力を、必要なときに必要な分だけロボットが稼働することで、大幅な電力削減ができた事例です。

再生可能エネルギーを生産・購入する

物流施設の屋根にソーラーパネルを設置し、太陽光発電による電気を倉庫で直接利用したり、売電したりすることで脱炭素に貢献できます。近年は売電するよりも、倉庫で直接利用する自家消費型が増えています。
倉庫で購入する電力を再生可能エネルギー由来のものにすることも有効です。

日本GLPは、物流施設の太陽光発電による電力と再生可能エネルギー由来の電力購入によって、100%再生可能エネルギーによって稼働する物流施設を開発しています(GLP栗東湖南、GLP広島II、GLP名古屋守山)。

物流施設がビークシフトに貢献できる

近年、太陽光発電の普及に伴って、太陽光発電による電力が余ってしまうという問題が顕在化しています。太陽光発電が大量に導入された地域では、晴れた日の日中に発電された電力が需要を上回ることがあり、電力会社は買取を停止したり、買取価格を一時的に下げたりする措置が取られています。
余剰電力の蓄電がその解決策になりますが、コストや蓄電容量の問題があり、解消には至っていません。

物流施設の多くは日中に多くの電力をつかうため、物流施設の屋根で太陽光発電した電力は間違いなく自家消費できます。
また最近、導入が拡大しているAGVやAMRなどの物流ロボットはバッテリーで稼働します。大量のロボットが持つバッテリーが、余剰電力を吸収する蓄電機能の一つになるかもしれません。

最後に

以上が、脱炭素、カーボンニュートラルに向けて物流企業が取り組むべき課題となります。これら個々の課題について、更に深堀りし、具体的なソリューションを取り上げる記事を今後、執筆していきます。新着記事は、X(@toralogi)で通知しておりますので、ぜひフォローをお願いします🐯

最後に、現在のディーゼルトラックベースの物流をひっくり返すかもしれない、破壊的なサービスを提供するスウェーデン発のスタートアップ「Einride(アインライド)」を紹介します。近未来の物流は、無人運転EVトラックによって支えられるかもしれません。

物流ユニコーン「Einride」の無人EVトラックが凄い

Einrideは、自律型電動輸送車(Autonomous Electric Transport (AET) )とインテリジェントな道路貨物輸送プラットフォームによって、脱炭素に貢献します。

Einrideは、2019年よりオペレーションを開始しており、現在ヨーロッパと北アメリカでサービス提供しており、コカ・コーラとも提携しています。提携企業は物流トラックのEV化によって、ディーゼルトラックと同水準のコストを維持しながら、CO2排出量を90%削減することに成功しています。また2023年5月にはアラブ首長国連邦のエネルギーインフラ省とともに、2,200台のEVトラックと8基の充電ステーションを配備した貨物モビリティグリッドを構築する計画を発表しています。

完全無人物流EVトラック、Einride Pod

完全無人EVトラック「Einride Pod」(Einrideより)

EVトラックの輸送キャパシティをサブスク提供

EVトラックはバッテリー価格の高さとエネルギー密度の低さから、ディーゼルトラックと比べて航続距離が短かいか、高価で・積載量が限られるため、どの国でも導入が進んでいません。そこでEinrideは、運転席も窓もない「Pod」と呼ばれるAETを開発・保有し、その制御ソフトウェアを自社開発し、輸送キャパシティをサブスクリプションでサービス提供します。

Podは従来のトラックとは違いドライバーを必要としません。AI技術による自律運転モードを備えており、専用プラットフォームを介して、遠隔にいるオペレーター(リモートポッドオペレーターと呼ばれます)により、運転(監視・制御)されます。1人のオペレーターが複数台のPodを同時に監視・操作することができ、現在の同時操作台数は数台ですが、将来は1人で10台、20台のPodを同時にオペレーションする予定だといいます。

Einrideは高価で、資産価値の減り方が未知であるEVトラックを大量に保有するリスクをとります。Einrideは、どの車両を使って、どのルートを通って、どこで・どのタイミングで・どの程度充電するのかを、自社開発ソフトウェアで管理し、充電ステーションも作ります。彼らは無人EVトラックの使い方、高価なバッテリーを長持ちさせる充電方法、効率的な配送ルートの組み方を知っています。荷主はその輸送キャパシティをサブスク契約するだけです。

Einrideは日本を含むアジア市場への展開も検討しているそうで(TOMORUBA、2021年7月)、日本の脱炭素やトラックドライバー不足課題のソリューションになるかもしれません。

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日本の電動化、蓄電池、充電・充てんインフラ目標
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