物流関係者必読! 「フィジカルインターネット・ロードマップ」の要点まとめ

  • 2023年1月16日

2022年3月に経済産業省と国土交通省が、「フィジカルインターネット・ロードマップ」を取りまとめ、発表しました。

インターネットのようにオープンで、どこからでも同じようにつながる、こういったコンセプトをフィジカルな物流にも適用しようという、物流の発展を目指す考え方がフィジカルインターネットです。(後でもっと詳しく解説します)

このロードマップは関係省庁横断で検討されたもので、国として今後の物流業界の変革の方向性を示すものです。業界の関係者が将来のことを考える拠り所となる重要なドキュメントです。政府レベルで策定されるロードマップとしてはおそらく世界初となり、日本が世界に先駆けてフィジカルインターネットを実現し、高度化された物流を輸出産業にする将来までもが描かれています。ロードマップのゴールは2040年ですので、徐々にではありますが、そのような方向性に向かうであろうという指針にはなりそうです。

このロードマップは今後もアップデートされていく予定で、政府が5年毎に策定・閣議決定する「総合物流施策大綱」、「官民物流標準化懇親会」での議論、「SIPスマート物流サービス」での成果、スパーマーケットや百貨店、建材住宅設備などの業種別のワーキング・グループでの議論に基づいて、反映されていきます。

現在、日本が直面している物流クライシスの影響度とフィジカルインターネット実現後の可能性を考えると、物流に直接携わられる方々はもちろん、ビジネスに関わる多くの方々が知っておくべき重要なロードマップであるといえます。今回はこの物流関係者、必読の「フィジカルインターネット・ロードマップ」の要点をご紹介します。

目次

フィジカルインターネットとは

「The physical internet」は2006年のThe Economist紙の表紙にその言葉が登場し、世界的に注目され始めました。

the economist the physical internet

2006年6月17日 The Economist紙 表紙

フィジカルインターネットの由来はデジタルインターネット(インターネット通信)のアナロジーです。インターネット通信は、かつて専有回線で繋がれていましたが、現在はIPネットワーク(パケット交換方式)によって、回線をオープンに共有して成り立っています。

フィジカルインターネットの考え方

出所:「フィジカルインターネット・ロードマップ」(2022年3月、フィジカルインターネット実現会議)

これを現実の物理世界にも適用しようというコンセプトが「フィジカルインターネット」です。荷物が通信データで、輸送の最小単位となるコンテナがパケット、荷物の積替えを行う物流拠点がパケット交換機になるわけです。フィジカルインターネットを実現するためには以下3つの要素が必要です。

  • トラック、倉庫など物流サービスに関わる全てのリソースの存在や位置、稼働状況がオープンかつリアルタイムで共有されること
  • 荷物を収納し、輸送するためのコンテナが標準化されていること
  • これらの情報が標準化されたプロトコルで共有されること

フィジカルインターネット・ロードマップのゴールは2040年、あと20年弱です。フィジカルインターネットはどのように実現されるのでしょうか。

フィジカルインターネット実現後の可能性

まず最初にロードマップが目指すゴールについて知っておきましょう。ロードマップでは「効率性」「強靭性」「良質な雇用の確保」「ユニバーサル・サービス」の4つの価値で実現イメージを描いています。その実現によって、現状との比較で何が得られるのかがチャートに示されています。

フィジカルインターネットが実現する価値

フィジカルインターネットが実現する価値

出所:「フィジカルインターネット・ロードマップ」(2022年3月、フィジカルインターネット実現会議)

本文には物流が超効率化した世界の在りかたや、少子高齢化などの問題で衰退しつつある日本のビジネス機会の拡大などにも言及しており、政府の意欲、意気込みが感じられます。ロードマップの本文よりいくつか抜粋、紹介します。

調達・生産・物流・販売の各領域と包 装・輸送・保管・荷役・流通加工及びそれらに関連する情報の各機能のデータを連携させ同期化 させることで、最適なサプライチェーンマネジメントが可能になる。消費地までの最適な物流を 考慮した生産拠点の柔軟な配置も追求できる。これをさらに発展させて、消費者情報・需要予測 を起点に製造拠点の配置も含めて最適化する「デマンドウェブ」を形成すれば、「売れないモノは 作らない、運ばない」ということが可能になり、もはや廃棄ロスの問題は過去のものとなる。消費地で生産したり、究極的には、3D プリンタのようにモノの輸送をデータ通信に置き換えたりす ることで、「モノを運ばない流通」という選択肢もあり得るだろう。

我が国がフィジカルインターネットを実現し、それが少子高齢化社会においても持続可能な物流システムであることを示すことは、同じく少子高齢 化問題を抱えている国々のモデルともなる。各国でフィジカルインターネットが実現し、経済が 成長するならば、それは我が国の輸出市場が拡大するということにもなろう。

物流リソースに乏しい中小企業や個人であっても、一 定の要件を満たせば、全国さらには国際的な調達・販売が現在よりはるかに容易になる等、物流にかかる「規模の経済」の享受を容易にし、ビジネスの機会を拡大する。いわば、誰であっても、どこにいても、市場に参入し、他の事業者や消費者と、サイバー空間のみならずリアル空間においてもつながることができるようになるのである。こうして、フィジカルインターネットは、中小企業の成長や起業の可能性を高め、経済全体を活性化することで、多方面での雇用の確保にもつながっていく。

政府はフィジカルインターネットの革新的な世界が実現するまでの道のりをどのように定めているのでしょうか。まずはロードマップの構成をご紹介します。

フィジカルインターネット・ロードマップの構成

「フィジカルインターネット・ロードマップ」は6つの章から構成されています。

1.我が国に迫る物流クライシス – なぜ「フィジカルインターネット」が必要なのか
2.フィジカルインターネットのコンセプト、歴史、海外動向
3.フィジカルインターネットが実現する社会のイメージ
4.フィジカルインターネット実現に向けたロードマップ
5.パフォーマンス
6.おわりに

各章の内容をもとに整理・イメージ化すると、下図のようになります。※「6.おわりに」は割愛。

フィジカルインターネット・ロードマップの章の構成イメージ

「フィジカルインターネット・ロードマップ」の章の構成イメージ

まず、1章「我が国に迫る物流クライシス」で、現在日本が直面している深刻な物流クライシスへの認識をあらためて確認し、フィジカルインターネットの必要性を訴えます。

物流クライシスを解決した2040年のゴールの状態を3章「フィジカルインターネットが実現する社会のイメージ」に示し、このゴールまでの段階的な道のりを4章「フィジカルインターネット実現に向けたロードマップ」にて示します。

ゴールにたどり着くまでパフォーマンス指標とすべき数値については5章「パフォーマンス」にて、フィジカルインターネットの考えやコンセプト、海外の実証実験事例の紹介、説明を2章「フィジカルインターネットのコンセプト、歴史、海外動向」で記述しています。

このロードマップの肝は、ゴールが描かれる3章と、ゴールまでの道のりを示した4章です。1章で訴える「物流クライシス」は物流コストインフレや2024年問題など、トラロジ読者層である物流関係者の皆様であれば、既に認識されているであろう内容であり、2章は言葉の定義やこれまでの歴史、海外の実証研究動向などで、相対的に重要度が低いと考え、今回は3章、4章の要点を中心にご紹介いたします。

「3.フィジカルインターネットが実現する社会のイメージ」の要点

目指すゴールをひと言で表現したものが次の文章で、先ほど紹介した「フィジカルインターネットが実現する価値」チャートの真ん中にも記載されています。

『時間』『距離』『費用』『環境』の制約から、個人・企業・地域の活力と創造性を解放し、価値を創出するイノベーティブな社会

ロードマップでは、これを具体的に4つのポイントで説明しています。それぞれの要点をご紹介します。

  1. 効率性(世界で最も効率的な物流)
  2. 強靭性(止まらない物流)
  3. 良質な雇用の確保(成長産業としての物流)
  4. ユニバーサル・サービス(社会インフラとしての物流)

①効率性(世界で最も効率的な物流)

フィジカルインターネットが実現した世界では、物流拠点、トラック、輸送の最小単位となるコンテナ(PIコンテナ:Physical Internetコンテナの略)の位置や稼働状況など、すべての情報が共通のプロトコルで共有されるため、究極の物流効率化が可能となります。

効率化によって輸送による温室効果ガス削減に大きく寄与し、2050年のカーボンニュートラルの実現に大きく貢献します。また、効率化によりサプライチェーン全体の変革がもたらされ、需要予測情報を連携させた「デマンドウェブ」(需要のある分についてのみ生産・物流が発生する)が形成され、廃棄ロス・ゼロ消費地生産の拡大も実現されるとしています。

②強靭性(止まらない物流)

フィジカルインターネット実現後の世界では、すべての物流リソースの状況がオープンに共有されます。トラックはもちろん、内航船や鉄道など、貨客混載輸送も含めたすべての輸送手段と経路、中継となる物流拠点の稼働状況も情報共有されます。しかも企業や業種を超えて、です。つまり多様な物流の選択肢が安定的に確保され、様々な人に提供されます。

これにより自然災害が多く、過去に何度もサプライチェーンの寸断や混乱を経験してきた日本においても「止まらない物流」を手に入れることが出来る、としています。

③良質な雇用の確保(成長産業としての物流)

フィジカルインターネットが実現すれば、物理面ではユニットロードシステム(※)が実現し、情報面ではEDIなど各種データの連携プロトコルの標準化が達成されます。これにより、現在の非効率な物流業務の効率が大幅に改善され、生産性が向上し、物流に従事する労働者の労働環境・賃金が改善され、安定的な雇用を確保ができる、としています。
※ユニットロードシステム … 形状や重さの違う様々な荷物を標準化された輸送単位にまとめて輸送する方式。荷役作業を機械化し、輸送や保管を効率化する仕組み

また物流拠点の機械化・自動化、情報連携プラットフォームの形成にともなって、物流機器やロボット、AI、IoTなどを含めた情報サービスが必要となり、新たな産業が創出されます。さらに、フィジカルインターネットを実現するための高度な物流システムを世界に輸出することも期待されます。

またフィジカルインターネット実現後は、中小企業や個人であっても物流にかかる「規模の経済」を享受することが容易になり、サイバー空間のみならず、リアル空間においても消費者や他の事業者とつながることができ、それによりビジネス機会が拡大される、としています。

④ユニバーサルサービス(社会インフラとしての物流)

フィジカルインターネットは企業や業界の垣根を超えて、すべての物流リソースと情報をオープンに共有するため、オープンで中立的なデータプラットフォームを形成することになります。これが社会インフラとなり、買い物弱者の解消、地域間格差の解消を実現する、としています。

フィジカルインターネットが実現する価値をSDGsに照らす

この章の締めくくりでは、フィジカルインターネットが実現する価値をSDGsの目標に照らし合わせています。SDGsの17の目標のうち、8つの目標の達成に大きく寄与することが示されています。保健、エネルギー、成長・雇用、イノベーション、不平等、都市、生産・消費、気候変動の8つです。

SDGsにおけるフィジカルインターネットの貢献項目

持続可能な開発目標(SDGs)におけるフィジカルインターネットの貢献項目(青枠内)

出所:「フィジカルインターネット・ロードマップ」(2022年3月、フィジカルインターネット実現会議)

 

「4.フィジカルインターネット実現に向けたロードマップ」の要点

それではロードマップを見ていきましょう。

フィジカルインターネットロードマップ

フィジカルインターネット・ロードマップ

出所:「フィジカルインターネット・ロードマップ」(2022年3月、フィジカルインターネット実現会議)

ロードマップでは2025年までを準備期、2030年までを離陸期、2035年までを加速期、2040年までを完成期として、輸送機器、物流拠点、垂直統合、水平連携、物流・商流データプラットフォーム、ガバナンスの6つの項目に分けて示しています。それぞれその要点をご紹介します。

輸送機器(自動化・機械化)

2025年までの準備期に「後続車有人隊列走行システム・高速道路での後続車両無人隊列走行システムの商業化」及び「限定地域での無人自動運転サービス」、2030年までの離陸期に「高速道路での自動運転トラック実現」が示されています。これを推進するのが、ITS(※)・自動運転に係る政府全体の戦略である「官民ITS構想・ロードマップ」となります。
※ITS … Intelligent Transport Systems(高度道路交通システム)の略

また「自動配送ロボットによる配送の実現」「ドローン物流の社会実装の推進」も、準備期に示されており、2022年の通常国会に関連法案を関係省庁より提出することになっています。ドローン物流については、買い物弱者対策となることを期待されています。2021年には航空法を改正し、2022年12月までにレベル4飛行、つまり有人地帯での補助者なしの目視外飛行が可能となる予定で、その実現に向けて着々と進んでいます。

この項目では離陸期以降について具体的なマイルストーンは示されておらず、データ連携や積替拠点の自動化・標準化、輸送機器に係る社会実装の動向を踏まえてフィジカルインターネットへの活用を進めていく、としています。またモーダルシフトの取組みも、ドライバー不足の緩和やCO2削減に有効であり、引き続き進めていくことが重要である、としています。

物流拠点(自動化・機械化)

本項目では、2030年までのおよそ10年間を物流DXの「集中投資期間」と位置づけ、業務のデジタル化による効率化、AIやIoTなどの先端技術により物流施設全体の可視化やマテハン導入などによる業務効率化を強力に推進する、としています。2025年までにロボットフレンドリーな環境を構築し、2030年までには積替え拠点となる物流拠点が装置産業化、つまり人的資源に頼ることなくマテハンなどの装置・機器に投資をすれば業務量を増やせる状態にし、2030年代には完全自動化された物流拠点が登場する、としています。もちろん、これらの物流拠点の物流リソースは商品位置情報を含め、すべてがオープンに共有されることになります。

垂直統合(BtoBtoCのSCM)

BtoBtoCのSCMとは、「部品生産 → 調達物流(BtoB) → 生産 → 販売物流(BtoC) → 販売」のサプライチェーン全体について、企業の枠を超えてデータを可視化し、リアルタイムに共有化することで需給ギャップの解消を目指すことを指します。日本企業に求められるのはSCMを中心に据えた経営戦略への転換で、そのためにデジタル化と標準化を進めるべきだとしています。「官民物流標準化懇親会」において、長期的視点でその課題や推進方策を議論・検討し、一貫パレチゼーションを徹底し、ユニットロードシステムの確立を目指す、としています。

さらに、これらの取組が奏功して、生産と物流の連携・統合が加速していくと、2030年代には「売れないものは作らない、運ばない」ことが当然となる「デマンドウェブ」へと進化する、というロードマップが描かれています。

水平連携(標準化・シェアリング)

ユニットロードなどのハード面の標準化と、EDIの仕様などのソフト面の標準化の両方を連携して取り組む必要があるとしています。具体的なロードマップとしては、2025年までの準備期にソフト面では物流EDI標準の普及、ハード面ではパレットの標準化、PIコンテナの標準化を行います。その後、2030年までに業界内・地域内で、2035年までに業界間・地域間・国際間で、企業・業種の壁を超えた物流機器のデータのシェアリングを段階的に実現していく、としています。シェアリングの実施にあたっては、業務プロセスやコード体系等の標準を定めた「SIPスマート物流サービス 物流標準ガイドライン」の活用が効果的であるとしています。

物流・商流データプラットフォーム

近年、求荷求車マッチングや倉庫シェアリングなどを提供するスタートアップ起業も登場しています。2025年までこれらのプラットフォームビジネスが発達してくと同時に、「SIPスマート物流サービス」において、複数のシステムを相互接続できる「物流・商流データ基盤」の研究開発と社会実装が進みます。2026年以降には、これらのプラットフォームが相互に接続されます。さらに、プラットフォーム間の自動的・自律的な調整を行う「自動交渉」の技術がプラットフォーム間の連携促進する、としています。

2031年以降になると、物流情報に加えて、金流や気象情報、交通情報など多様なデータを連携した業種横断のプラットフォームが構築されます。

ガバナンス

2025年度までの準備期に求貨求車マッチングや倉庫シェアリングといった物流スポット市場が発達します。2026年以降の離陸期になると各種プラットフォームが大規模化し、「物流・商流データ基盤」により相互に連携し、全国規模のエコシステムが姿を表し始めます。このエコシステムには、民間か、政府によるものか、を問わず何らかのルール形成が必要になりますが、このルールはフィジカルインターネット実現の進捗に合わせて形成していく、としています。

その他 解消すべき課題

ロードマップの最後に「その他」として、解消すべき課題をあげて、締めくくります。

ハブとして機能する物流拠点の設計(規模や在庫機能の有無等)、多様な商品特性、静脈物流等を考慮した共同輸配送の設計、フィジカルインターネットの下での物流事業者のビジネスモデルのあり方、また、それを運用していく人材の育成等が、今後、検討すべき論点であろう。さらに、フィジカルインターネットの形成が進むにしたがって、新たな課題が浮上する可能性もある。
また、フィジカルインターネットは、消費者に多大な便益をもたらすものではあるが、持続可能な開発目標の達成という観点から見るならば、消費者には、単にその利便性を享受するだけではなく、環境や社会に配慮した消費行動を能動的にとる必要もあろう。
今後、ロードマップの進捗に併せて、こうした諸課題を、関係者間でひとつひとつ検討し、克服していくことが重要である。

ロードマップについての考察

ここまでの説明でフィジカルインターネット・ロードマップについて、ご理解いただけたかと思います。しかし物流業界の現状をふまえると、特に物流機器の標準化や多重請負構造などの商慣行の課題、SCMが進まないなど、ロードマップが示すゴールとのギャップは大きく、その実現には多くの課題があります。本文でも下記のように述べています。

物流に関しては、サプライチェーン全体を通して、「業務プロセスが標準化されていない」、「物流事業者の作業負荷を大きくする商取引慣行が存在している」、「パレチゼーション 等ユニットロードシステムが構築されていない」、「店着価格制(商品価格と物流コストとを分 離せずに納品価格とする方式)のために物流コストが可視化されない」等、効率化を阻害する 問題が山積している。

ではフィジカルインターネット実現に向けた動きに対して、いま物流事業者は具体的に何を意識して、どう準備したらよいのでしょうか。

いま物流事業者が意識すべきこと・・・高度人材の育成&業務標準化&小さくても確実な改革の積み重ね

フィジカルインターネットの実現は2040年に設定されており、あと20年弱もの期間があります。採用される具体的な機器の規格やプロトコルも決まっていません。

今後、ハード、ソフトともに徐々に標準化が進んでいきます。物流事業者は適切なタイミングで標準化された機器やサービスを選択・投資していく必要がありますので、この動向について定期的に情報収集をしましょう。具体的には「フィジカルインターネット実現会議」、「SIPスマート物流サービス」、「総合物流施策大綱」、「官民物流標準化懇親会」など、政府・関係省庁から発信される情報に注視し、いち早く標準化の流れを掴みましょう。そして標準化された機器やサービスをスムーズに業務に組み込んでいくために、今から業務プロセスを整理・改善し、標準化に備えることが必要です。
※トラロジでは今後もこれらの情報を適宜、わかり易く発信していきますので是非ご購読をお願いします。

また2026年の離陸期以降はプラットフォーム間の連携が進み、外部との連携がより容易になり、様々な選択肢が増えることになります。標準化されたハード、ソフトを自身で保有/利用する他に、それらを上手く使いこなすことが物流事業者の差別化要因になってくると思われます。今後は、そのための高度人材の確保・育成がより重要になってくると考えられますので、こちらも準備を進めましょう。

新しい技術やサービスによる改革を、過剰な投資にはならないよう、確実に使いこなせる範囲で、できるだけ積極的に取り入れていき、組織としてその経験値を蓄積していくことも高度人材の育成につながります。また、順番が前後しますがその前提として、できるだけ業務プロセスを標準化して改革の地ならしをしておくことで、様々な変化を受け入れやすく、その効果を得やすくなるはずです。

日本におけるフィジカルインターネットの萌芽

近年、IT技術の発展や物流リソースの逼迫を背景に、求貨求車マッチングや倉庫スペースマッチング、トラック予約受付システムなどのサービスを提供するスタートアップ企業などが現れています。これらはフィジカルインターネットの萌芽と言えます。まだ規模は小さく物流スポット市場の段階にとどまっていますが、これらのプラットフォームがオープンに共有化されたネットワークに接続されていき、フィジカルインターネットが形成されていくことになります。代表的なサービスのリンクを下記に列挙しておきます。

求貨求車マッチング

倉庫シェアリング

トラック予約受付システム

物流ビッグデータ活用

これらのプラットフォームが成長し、多くの物流業者に利用されるようになれば、大量のデータが蓄積され、物流ビッグデータとして様々な用途への活用が期待できます。フィジカルインターネットの実現には物流ビッグデータの活用が必要となるはずです。現在はフィジカルインターネットの準備期であり、これをオープンに活用するためのデータベース基盤はありません。

プラットフォームを展開する各社に蓄積されていく物流ビッグデータはいったい誰のものなのでしょうか。
MOVOなどのソリューションを展開するHacobuは、物流の最適化には個社内に閉じることなく複数のステークホルダー間で共有したデータによって、データドリブンで解決策を考え、新しいロジスティクスのあり方を考えていく「データドリブン・ロジスティクス」の考えを打ち出しており、物流ビッグデータに関するガイドラインを策定しています。詳しくはこちらの記事を参照いただければと思いますが、簡単にその要点をまとめると次のようになります。

  • 会員企業は自身の活動で生成されたデータ(1次データ)を好きに使える
  • Hacobuは1次データの分析を行うが、分析結果はその1次データを生成した当該会員だけに提供する。当該会員の許諾無しに他の人に開示することはない。

ただしガイドラインの見直しについて、次のように記載しており、継続的に変容、進化してく余地を持たせています。

a. Hacobuは物流ビッグデータ活用に関して、サプライチェーン全体の最適化という社会益とステークホルダーの個社益の両立を目指して、ステークホルダーの皆様との対話を進めてまいります。
b. ステークホルダーの皆様との対話やビッグデータ活用に関する社会通念の形成や事例の蓄積などを踏まえ、必要に応じて本ガイドラインを見直し、継続的に進化させていきます。

ロボットの群制御AI

ロードマップによると、フィジカルインターネットにおいて、インターネット通信におけるパケット交換機にあたる役割を担う「物流拠点」は、2030年代に完全に機械化・自動化されます。
現実の物流拠点での保管・積替えなどの倉庫作業は、複合的な調整の集合体です。機械化・自動化された物流拠点では、複数種類・複数台のロボットが活躍することになるはずで、デバンニング、デパレタイズ、自動フォークリフト、自動搬送、仕分けなどの作業を行う複数のロボットが自律的に適材適所で連携して動く必要があります。
導入した物流ロボットがそれぞれ独立のソフトウェアで制御されていれば、自律的に協調しながら作業することは難しいでしょう。複数台のロボットを制御する群制御ソフトウェアがこれから重要になってくると考えます。

バンガロールと東京に拠点を持つrapyuta roboticsはロボットの「群制御AI」技術を持っており、今後はこういった技術が重要になってくると考えられます。以下はラピュタロボティクスCEOのガジャン氏のYoutubeチャンネルにアップロードされた動画です。

ロボットを制御するソフトウェアをクラウドにおくことでモジュール化された機能を組み合わせて、効率的に安くロボットが開発でき、また別のロボットが得たマップ情報を活用しつつ、協調的・自律的に複数のロボットがワークする様子がよく分かります。

スマホOSで世界シェアNo.1を誇るAndroidはオープンソースとして、本来は企業秘密であるはずのソースコードを全世界に公開しています。Googleは高い技術力によって作り上げたものを惜しみなく公開することによって、世界中の誰もがAndroidソースコードを用いたアプリを開発できる環境を作り、一気に世界に普及させたのです。

ロボットを制御するソフトウェアの世界でも、これと同じようなことが起こる可能性を感じさせます。

 

フィジカルインターネットは実現するか? 政府によるリーダーシップの必要性

日本の物流業者は中小企業率が非常に高く、トラック運送事業、倉庫業では中小企業の割合が9割を超えます(2020年3月、国交省「物流を取り巻く動向と物流施策の現状について」)。中小企業の多くは、物流クライシスに耐えている状態で多額の投資をする余力がありません。フィジカルインターネットを実現させるためには、中小企業の負担を軽減する補助制度なども必要なのではないでしょうか。

またフィジカルインターネット実現のために各種物流機器を標準化を進める必要がありますが、パレットについては実は1970年にJISによってT11型パレットが規格化されています。しかし現在の普及率は40%以下と言われています。半世紀以上かけても、この程度の普及率であるのに、果たして今後の数年でPIコンテナを規格化・標準化し、さらに2030年までに広く普及する状態になるのでしょうか。

フィジカルインターネットの実現には政府主導の強力なリーダーシップであると考えます。でなければ、今、インターネット世界がGAFAMに牛耳られているように、物流版のAWS(Amazon Web Service)のような海外製の物流MaaSなどが台頭し、それを利用するだけの未来になってしまうかもしれません。

国の主導により日本製のフィジカルインターネットが実現するかもしれませんし、海外発の破壊的なサービスが現れそれを利用することになるかもしれませんが、どちらにしても、大枠の方向性としては、今回のフィジカルインターネット・ロードマップが示すような内容になってくるのではないかと考えます。

 

フィジカルインターネット・ロードマップの要点のご紹介は以上となります。次回以降、「総合物流施策大綱」、「SIPスマート物流サービス」なども紹介していきます。

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