アマゾンが2025年10月に発表した複数アーム統合型の倉庫ロボット「Blue Jay(ブルージェイ)」の開発を、2026年1月に中止していたことが明らかになりました。発表からわずか約3カ月での開発中止という異例の判断の背景には、コストの高さや製造工程の複雑さ、実装上の課題があったとされています。アマゾンはBlue Jayの技術を活かしつつ、モジュール式の新システム「Orbital(オービタル)」と床置き型ロボット「Flex Cell(フレックスセル)」へと開発の軸足を移す方針です。
Blue Jayとは何だったのか

出展:Amazon
Blue Jayは、アマゾンの自動化研究開発子会社Amazon Robotics(アマゾン・ロボティクス)が開発した次世代ロボットシステムでした。天井に設置されたトラックから複数のロボットアームが吊り下げられ、棚出し、棚入れ、集約という3つの作業を1つのワークスペースで同時にこなす画期的な仕組みを持っていました。
従来はそれぞれ独立したロボットステーションで処理していた3つの作業を統合することで、省スペースと効率化を実現。デジタルツイン技術を活用したAIシミュレーションにより、従来3年以上かかっていた開発期間をわずか1年余りに短縮するという、開発手法の面でも注目を集めたプロジェクトでした。
サウスカロライナ州のフルフィルメントセンターでテスト稼働も開始されており、当日配送拠点を支える「コアテクノロジー」と位置づけられていました。
開発中止の理由
Business Insiderの報道によると、Blue Jayが開発中止に至った主な理由は以下の3点です。
①コストの高額さ: 天井走行型の複雑なロボットシステムは、製造・設置にかかるコストが想定以上にかさんだとみられます。
②製造工程の複雑さ: 複数のロボットアームを天井から吊り下げて協調制御するという高度な機構は、量産や展開の面で課題を抱えていました。
③実装上の課題: 既存の当日配送システム「LVM(Local Vending Machine)」の一体型構造の中で動作するよう設計されていたことも、柔軟な展開を難しくしていた要因と考えられます。
プロジェクトに携わっていた多くの従業員は、すでに他のロボティクス関連チームに再配置されたとのことです。
新たな方向性:新システム「Orbital」と新ロボット「Flex Cell」
アマゾンは、Blue Jayの廃止と並行して当日配送システム全体の刷新を進めています。
Orbital(オービタル)
アマゾンが現在準備を進めている次世代の当日配送倉庫向けシステムです。従来の「LVM」が一体型で自動化機能が不可分に統合されていたのに対し、Orbitalはモジュール式を採用しています。さまざまな構成に組み替え可能な多数のコンポーネントから構成されるため、システムの展開と拡張が容易になります。
Orbitalは大規模フルフィルメントセンターよりも比較的小規模な当日配送拠点に適しており、傘下の食品スーパー「ホールフーズ(Whole Foods)」店舗のマイクロ物流設備向けソリューションとして展開される可能性もあります。冷蔵製品の取り扱いにも対応し、生鮮食品分野でウォルマートとの競争力を強化する狙いがあります。
ただし、Orbitalを軸にした当日配送倉庫のデビューは2027年以降になる見込みです。
Flex Cell(フレックスセル)
Blue Jayの技術を引き継ぐ新たなロボットシステムです。Blue Jayが天井走行型だったのに対し、Flex Cellは床置き型を採用する予定とされています。この設計変更は、より設置が容易で柔軟性の高いシステムを目指すアマゾンの方針転換を象徴しています。
物流ロボット開発の難しさが浮き彫りに
今回のBlue Jay開発中止は、AIロボット技術の開発がいかに困難であるかを改めて浮き彫りにしました。
生成AIはインターネット上の大量のテキストデータを活用してデジタル領域で目覚ましい進歩を遂げていますが、物理的な領域ではトレーニングデータの入手が難しく、現実世界でのロボット運用にはデジタル世界とは比較にならない困難が伴います。デジタルツインによる高速開発を実現したBlue Jayでさえ、コストや製造の壁を越えることはできませんでした。
一方で、Blue Jayの技術自体が無価値になるわけではありません。アマゾンの広報担当者は、過去のSparrow(スパロー)やProteus(プロテウス)、Vulcan(ヴァルカン)と同様に、Blue Jayのコア技術は同社の物流ネットワーク全体にまたがる別の取り組みに引き継がれると説明しています。
業界への示唆:一体型から分散型・モジュール型へ
アマゾンのこの動きは、物流自動化業界全体にとっても重要な示唆を含んでいます。
大規模で高度に統合されたシステムよりも、モジュール式で柔軟に構成を変えられるシステムの方が、変化の激しいEC物流環境に適しているという認識が広がりつつあります。当日配送・即日配送の需要拡大、都市部のマイクロフルフィルメント化、食品を含む商品カテゴリーの多様化といったトレンドに対応するには、拠点ごとの条件に合わせて柔軟にカスタマイズできるモジュール型アプローチが有効です。
こうしたモジュール型の思想は、日本の物流現場にもよくフィットするものとして浸透が進んでいます。例えば仕分けロボットの「t-Sort」はビジネスの成長や季節毎の繁閑差に応じて稼働するロボットの台数やロボットが走行するスペースの広さを柔軟に変更しながら利用することができます。Raas(Robotics as a Service)という、いわゆるサブスク形式で、初期投資は抑えてロボットの利用量に応じて費用が発生するという課金形態もこの利用方法にマッチするものです。また、ここ数年のトレンドになっている自動倉庫タイプの物流ロボット(例えばAirRobやNano-Sorter、ラピュタAS/RS、PopPick、HaiPickなど)についても、最初から大規模な導入を前提とするのではなく、スモールスタートして規模の成長および現場でのロボット利用の習熟に合わせて柔軟に規模を変更していくような導入パターンが増えてきていると感じます。また、スモールに使いやすいということは、中小規模の物流センターでも物流ロボットなどの自動化ソリューションの導入を検討しやすくなってきているとも言えます。
アマゾンが世界最大規模のロボティクス投資を行いながらも、コストや実装面の壁に直面して方針転換を図っている事実は、物流自動化の道のりが単純な技術進歩の延長線上にはないことを示しています。高度な技術の開発だけでなく、それを現実の物流現場にどう落とし込むかという実装力が、今後ますます重要になるでしょう。t-Sortのように「小さく始めて柔軟に拡張する」アプローチは、まさにその実装力を体現するものであり、アマゾンがOrbitalで目指す方向性とも通じるものがあります。
関連リンク
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- Amazon公式ニュースリリース – Blue Jay and Project Eluna
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