物流ロボットの一種であるピッキングアシストAMRを特集する記事の、後編です。
前編では、ピッキングアシストAMRの定義、市場動向、主なソリューション、他の物流ロボットとの違いを考察しました。
前回ピッキング作業を支援するロボットを幅広く特集しました。今回はそのうち、ピッキングアシストAMRについて掘り下げます。…
この後編では、アナログで行われていた業務から、ピッキングアシストAMRを活用することで具体的にどのようなメリットが生まれるかを考察してお伝えします。またそのメリットを踏まえて、投資額とのバランスがどのように考えられるかについても言及しています。ぜひ前編と合わせてご覧ください。
なおピッキングアシストAMRを含む、様々な物流ロボットの紹介と比較にご興味がございましたらこちら(物流倉庫で活躍する最新の物流ロボットをご紹介 -②出荷編-)もご参照ください。
ピッキングアシストAMRを活用するメリットまとめ(対アナログ業務)
特集の前編では、他のタイプのロボットと比較したピッキングアシストAMRのメリットを整理しました。今回は、機械化されていない、いわゆる人が行う一般的なピッキング業務と比較して、AMRを活用することでどのようなメリットがあるのかを考察します。
ピッキングアシストAMR活用の3つのメリット(生産性アップ、マネジメント精度アップ、人の負担軽減)
大きく分けて3つのメリットがあると考えています。
①業務の生産性が上がる
②業務マネジメントの精度が上がる
③作業員の負担が軽減される
この後、①②③それぞれの内容を詳しく見ていきます。
メリット① 業務の生産性が上がる
ピッキングアシストAMRの最も重要なメリットはやはり生産性の向上で、その効果により投資額をペイすることが導入の最低条件とも言えます。ラピュタロボティクスに以前うかがったところ、導入規模や荷物の内容など条件によって異なるものの、実際の導入事例では、ピッキングアシストAMRによりピッキング業務の生産性が1.5~2.5倍に改善した実績があるとのことでした。
生産性が改善する要因は、次の3つです。この後それぞれを詳しく解説します。
①-1 作業者の移動時間が削減される
①-2 作業者の、商品探しとピッキングにかかる時間が削減される
①-3 作業者の教育にかかる時間が短縮される(新人でもすぐに高い生産性を発揮することができる)
①-1 作業者の移動時間が削減される
生産性に最も大きなインパクトを与えるのが、ピッキング作業者の移動時間の削減です。一般的なピッキング業務は、作業員がピッキングエリアを、台車を押しながら歩いて移動し、対象ロケーションに着いたらピッキングをして、また次のロケーションに移動して・・・台車分が一杯になったら梱包エリアに歩いて戻り、台車を空けてまた次のピッキングへと進む・・・という流れとなり、移動している時間が大きなウエイトを占めます。ピッキング作業時間の内、実に60%くらいが移動時間であるとも言われます。
ピッキングアシストAMRを活用すれば、AMRがピッキング作業者の移動の大部分を代替して、この移動時間を削減することができます。大体、ピッキング作業者1名に対してAMRが3台程度導入されることが一般的なようです。
流れとしては、まずAMRがピッキング対象のロケーションまで移動して待機します。そこに作業員が行ってピッキングを行うと、AMRは次のロケーションに移動します。次に作業員は、同じように待機している別のAMRまで移動して、そこでまたピッキングを行って・・・ということを繰り返します。ピッキング作業員は近くのロケーションに待機しているAMRの間を移動するだけで、その他の移動は全てAMRが行います。梱包エリアなどピッキング作業の次の工程への移動も、もちろんAMRが行います。ピッキング作業者は移動時間をかなり削減してピッキング作業に集中できるため、生産性が大きく向上します。
①-2 商品探し&ピッキング時間が削減される
ピッキングアシストAMRはピッキングロケーションへの移動時間を短縮するだけでなく、ロケに到着してから商品を探してピッキングするまでの時間も削減することができます。
一般的なピッキング業務では、ピッキング作業者はピッキングロケーション付近まで移動した後、紙のピッキングリストやハンディターミナルを参照しながら、どの棚のどの位置(詳細なロケーション)にある、どのアイテムであるかを確認してからピッキングします。慣れていない作業者ですとピッキングリストやハンディターミナルとロケーションの番号を何度も再確認するかもしれません。アイテムも、ハンディターミナルで写真も表示できるタイプでない場合は、アイテム名を見比べて確認するしかありません。似たようなアイテムが複数ある場合や、あまり出荷頻度が高くなく扱う機会の少ないアイテムの場合は、念を入れて確認するため一層時間が掛かりそうです。このようにロケや商品を探して確認することにも意外と時間がかかっています。
ピッキングアシストAMRを活用すれば、こういった時間が大幅に削減できます。例えばラピュタロボティクスのPA-AMRであれば、AMRがピッキング対象の詳細なロケーションの目の前に止まりますし、備え付けの画面(ハンディターミナルよりも大きいタブレットサイズが一般的)にアイテム写真も表示されるため、ぱっと見ただけでピッキング対象のアイテムを識別することができます。同じく画面に表示されたピッキング数をピックして、指定のコンテナに投入するだけでピッキングは完了。誰でも迷うことなくサッと行うことができます。さらに、次にどのロケに向かうべきか(最も効率的か)ということまで、画面に指示もしくはサジェスチョンとして表示してくれます。
①-3 作業者の教育時間が短縮される(新人でも即戦力になる)
ここまでで紹介してきた通り、ピッキングアシストAMRを活用すれば、ピッキング作業者はAMRが止まっているロケーションまで歩いて行き、そこで画面に表示されたのと同じアイテムをピッキングするだけです。ロケーションの配置や、アイテムの見た目、取り扱い上の注意事項などを記憶しておく必要がなく、業務がものすごく簡単になります。そのため当然、初期の教育やOJTにかかる時間が圧倒的に短縮されます。新人やスポットの派遣スタッフであっても即戦力として活躍できることも、AMRを活用することによる生産性向上効果のひとつと言えます。また、即戦力を簡単に揃えられることは、生産性の向上に加えて業務量の波動への対応力を大きくする効果もあります。
メリット② 業務マネジメントの精度が上がる
ピッキングアシストAMRを導入する2つ目のメリットが、業務をマネジメントする精度が上がることです。ここで言うマネジメントは、業務の設計、計画、実行時の進捗や生産性の管理、また改善など、全般的なものを指すとお考えください。物流ロボットであるAMRを導入し運用することに伴って、業務にまつわるデータが発生し蓄積されます。これを活用することでマネジメントの精度を高めることが期待されます。特に期待の大きいのが次の3つです。
②-1 業務の進捗や生産性をリアルタイムに、わかりやすく把握できる
②-2 波動対応に強くなる
②-3 データに基づく継続的な改善をしやすくなる
②-1 業務の進捗や生産性をリアルタイムに、わかりやすく把握できる
ピッキングアシストAMRがピッキング業務の進捗状況やその時点までの担当者別の生産性をデータとして蓄積し、リアルタイムに共有します。業務の管理者はこのデータを、通常はダッシュボードとしてわかりやすく一覧化された状態で、やはりリアルタイムに確認することができるため、人員配置を変更するなど何らかの対策が必要場合などに、即座にその判断をすることができるようになります。
②-2 波動対応に強くなる
実際のピッキングアシストAMRの導入事例では、AMRの導入台数は波動のピークではなく標準的な業務量に合わせて決めることが多いようです。AMRの稼働率が高い方が投資対効果を得やすいためです。標準的な業務量を、AMRを活用することで生産性高く少人数で完了する、というのが導入のターゲットとなります。もし業務量が標準よりも多ければ(プラスの波動がある場合は)、作業者を多く投入することでその波動を吸収します。ピッキングアシストAMRを活用することでそもそもの生産性を高くすることができているため、波動のピークが来た時でも従来よりも少ない人数の作業者で業務を完遂できるはずで、その意味で波動に強くなると言ってもよいと思います。
更に波動に強くなる方法として、波動に合わせて短期的にピッキングアシストAMRの台数を増やすことも考えられます。追加する作業者の人数が少なくて済み、生産性もより高くなります。例えばラピュタロボティクスでは、最短で3ヶ月間、追加のAMRをレンタルするサービスを試験的に提供しています。また、まだ実用段階に入った例は無いかもしれませんが、物流施設のオーナー側が、入居するテナント間で共有できる物流ロボットをまとめて用意し、その時々でロボットを必要とするテナントに必要なだけの台数を貸し出す、というような構想も見聞きします。複数のテナントで同じロボットを使うというのは、業務内容が異なると最適なロボットが同じにならない可能性があることや、ロボットを現場に持ってさえ行けばすぐにパッと使えるわけではなく、何かしらの設定が必要なことから、現時点では実現のハードルは高いように思いますが、もし実現できたとしたらメリットは大きそうです。
②-3 データに基づく継続的な改善をしやすくなる
ピッキングアシストAMRを活用してピッキング業務を行うと、業務にまつわる様々なデータが蓄積されていきます。誰がいつ何をピッキングしたか、その次に何をピッキングしたか、その間にどのくらいの時間が経過したか。作業員の生産性や特性(どのアイテムなら習熟していて作業が速い、など)がデータに現れるため、データに基づいて担当分けや配置を見直し最適化していくことができます。
AMRがどこにあり、どのルートを移動したか、というデータも蓄積されますし、AMRを管理するダッシュボードでは通常、全てのAMRの配置や動きをリアルタイムにトレースしているため、その瞬間の状況をリアルタイムに一目で確認することができます。ロボットであるAMRが渋滞して非効率なルートで移動することが多くなっているような場合は、それがデータに現れるため、レイアウトを変更したり、ピッキングの順番を調整したりすることで生産性をより高くしていくことができます。
一般的なハンディターミナルでも作業員の作業の記録はもちろん残りますが、場所や移動ルート、経過時間といった要素も合わせた分析ができることはAMRの大きな特長で、より効果の大きな改善策を導出できる可能性が高くなります。
メリット③ 作業員の負担が軽減される
先に紹介しましたピッキングアシストAMR導入のメリット①「業務の生産性が上がる」をご覧いただいて、既にそう感じられている方も多いかと思いますが、ピッキングアシストAMRを活用することでピッキング作業者の作業が従来と比べてとても楽になり、負担が軽減されます。ここであらためて、作業者の負担軽減という観点でAMRのメリットをまとめてみたいと思います。特に次の3つの観点で負担が軽減される期待があります。
③-1 台車を押して長い距離を移動しなくてよい
③-2 手ぶらで作業ができる
③-3 難しいことを覚える必要がなく簡単に作業ができる
③-1 台車を押して長い距離を移動しなくてよい
一般的なピッキング作業では、作業者はピッキング用のコンテナや箱を載せた手押し台車や2段台車(台車の天板が上下2段になったタイプ)を押して歩きます。少し押して歩くだけなら大した負担ではないですが、腰をかがめて台車を押し続けることは、何時間も続けるとなるとなかなかの重労働と言えます。AMRを活用すれば、AMRが台車の代わりに荷物を載せて移動するため、この負担がゼロになります。
③-2 手ぶらで作業ができる
ピッキングアシストAMRは画面にピッキング作業者への指示を表示するため、ピッキング作業者は従来ずっと持ち運んでいたような紙のピッキングリストやハンディターミナル、およびその付随品なる様々なもの(例えば紙をまとめるバインダーや筆記用具など)を持たずに、手ぶらで作業することができます。物流の関係者の方なら、紙のピッキングリストを複数枚持って、完了した作業にペンでチェックを入れて、残っている作業を確認して、紙をめくって次のリストへ進み・・・というようなアナログな作業を経験された方も多いのではないかと思います。しかも、台車を押しながらです。あの、色んなものでいちいち手が塞がる、面倒で煩雑な作業から解放されます。ハンディターミナルも、意外と重たかったりしますし、腰にぶら下げたものを取って、小さなボタンを押して、作業が済んだらまた腰に戻して・・・という面倒なことをしなくてよくなります。
今、紙のピッキングリストやハンディターミナルの運用にすっかり慣れていると、それはそれほど苦ではないかもしれません。でも一度ピッキングアシストAMRを使って、手ぶらでちょっとした距離を歩くだけになると、もう面倒過ぎて元の運用には戻れないのではないかと思います・・・。これは余談ですが、ラピュタロボティクスのAMRを活用されているユーザーにピッキング作業の負担について聞いてみたところ、ここで紹介しているように手ぶらだし台車も押さないので格段に楽になり、作業員からの評判も大変良いとおっしゃっていました。ただ・・・次から次へと目まぐるしくピッキング作業をしているので、それはそれで別の種類の大変さがあるそうです。ひたすらピッキングをされていると。確かに大変そうですが・・・ピッキングの進みが非常に速くなっている、生産性が上がっている証拠とも言えそうです😅。作業負担と生産性のバランスを上手く取らないといけませんね。
③-3 難しいことを覚える必要がなく簡単に作業ができる
メリット①「業務の生産性が上がる」のところで、作業者への教育時間が短縮されると紹介したのと共通の内容になりますが、新人でもピッキングアシストAMRのごく簡単な操作を覚えるだけですぐ現場にデビューできてしまう位に簡単に作業ができるようになります。写真が大きく表示され、ピッキング数量も投入先のコンテナも画面で明確に指示されるため、ミスが発生しにくいです。わかりやすく簡単な作業になるため、日本語が完璧でない外国人であっても写真や数量さえ認識できれば作業できることもあるかもしれません。
ピッキングアシストAMRのメリットは大きい! では、投資額とのバランスはどうか?
ここまで、ピッキングアシストAMRを活用するメリットを包括的に紹介してきました。先にもそのように書きましたが、ラックなど既存の設備も活かしながら省人化を実現しDXを推進する一手となりうるAMRは、魅力的なソリューションだと思います。
では、投資額とのバランスはどうか?AMRを提供する各社より紹介されている導入事例は多数ありますし更に増えていますが、具体的な投資額は明らかにされていません。これまでの導入事例(アーリーアダプターと言える時期と思います)として名前が挙がっているのは日本通運(※1)、佐川グローバルロジスティクス、京葉流通倉庫(※1)、アスクル(※1)、日本ロジテム(※1)、関通(※2)・・・と、やはり大手企業や、小~中規模ながらも自動化やDXへの積極性が高そうに思われる企業が多い印象です(※1はラピュタロボティクス、※2はシリウスの導入事例として公表されています)。導入するAMRの台数が多い方が投資対効果のバランスがよくなるのは想像に難くありません。現場の環境構築、WMSとの連携などシステムインテグレーション、テストや作業員のトレーニング、その他諸々のいわゆるAMR導入プロジェクトにかかる費用は、導入台数の多寡に比例はせず、1台あたりにかかる金額と考えると、導入台数が大きいほど金額は小さくなっていくはずです。そうすると、投資対効果もよくなります。導入規模が大きければ、単純にボリュームディスカウントを受けられる期待も大きくなってくるでしょう。
ただ、まだまだ大手だけが使える贅沢なソリューションなのか?と言うと、徐々にそうでもなくなってきている、そのように努力を積み重ねられ、投資額も抑えられるようになってきているようです。ラピュタロボティクス社に「同社のAMRを活用して投資対効果がプラスになる最低ライン、最小の規模というのはどのくらいか?」と質問してみたところ、例えばピッキングエリアの面積で150坪以上、ピッキング作業者の人数で5名以上・・・といったラインを想定されているとのことでした。このくらいであれば、そう大きな規模を必要としないなという印象です。
どのような面で投資額が抑えられるようになってきているかを具体的に見ていきましょう。まず、システムインテグレーションにおいて大きなウエイトを占めるWMSとの連携(WMSからの出荷指示データをAMRが受け取って、人と連携してピッキング業務を実行します)においては、個別のプロジェクトで毎回WMSとの連携を開発するのではなく、主要なWMSパッケージとの間でAPI連携をあらかじめ用意するよう取り組まれています。例えばラピュタロボティクスはロジザードZERO(ロジザード)と、シリウスはクラウドトーマス(関通)と、それぞれAPIによる自動連携を実現していると発表しています。このような連携が今後も拡充されていくと見られ、主要なWMSパッケージを使っている場合はAMRのシステムインテグレーション費用が軽減される期待があります。
それから、ピッキングアシストAMRの導入事例が増えていくことで、ソリューションを提供するベンダーの習熟度が上がって導入が効率的に行われるようになっていく、という成長もあります。導入にかかるプロジェクトが効率的に実行され短期間で完了させられるようになり、その分の導入コストが軽減されるようになります。筆者は、AMRのシェア1位で導入事例も最も多いと思われるラピュタロボティクスに、過去数年間に渡って何度かお話をうかがってきました。数年前には、AMRのベンダーであるラピュタロボティクス自身も、ソリューションをマーケットに提供し始めて間もなかったこともあり、AMRがどの業種や業務内容(アイテムの種類、サイズ、出荷頻度、出荷時のアイテム数などなど)にハマるか、どこで特に高いパフォーマンスを発揮するか、それほど明確な答えをまだお持ちでなかったという印象があります。それがここ最近は、様々な導入事例を積み重ねて知見を蓄積され、AMRがフィットする業種や業務内容はどれか、そこでどのようにAMRを活用すればより高い生産性を実現できるか、といったことについてより明確な答えを示されるようになっています。
このように、ピッキングアシストAMRを導入する一連のプロジェクトやそれにかかる投資は、徐々にこなれてきていると思われます。ピッキングアシストAMRのベンダーに来る引合にも、大手企業以外からの割合が多くなっており、(公開されている情報は少ないですが)成約事例も増えてきているようです。先に紹介したピッキングアシストAMRのメリットを検証し、十分に大きな成果が期待できる場合は、大手企業に限らない選択肢としてピッキングアシストAMRの導入を検討してよいくらいの成熟度になってきているのではないでしょうか。
前後編のピッキングAMR特集を通して、ソリューションの概要やメリット、投資額の動向などを考察しました。従来の人手による作業と比較して大きなメリットが期待できることや、そろそろソリューションとしての成熟度も十分になってきており、有力かつ現実的な選択肢となっていることなどご理解いただけたのではないかと思います。今後また、より詳しい機能や性能を取り上げた記事や、実際にAMRをお使いのユーザー企業へのインタビュー記事に取り組んでいきたいと思っています。お楽しみにお待ちください!
前編はコチラから↓