川崎重工業は2025年5月8日、米国のユニコーン企業Dexterity, Inc.と戦略的提携を結び、AIバンニングロボット「Mech(メック)」を共同開発したと発表しました。物流ロボット化の最前線を追う業界関係者にとって注目すべきニュースです。
出所:Dexterity, Inc.
世界初、AIによる自動荷積みロボット
「Mech」は、AIによる自律走行と2本のロボットアームを用い、物流施設でのトラック荷積み作業を自動化する世界初のロボットです。物流現場ではEコマース拡大による物量増加と慢性的な人手不足が深刻化しており、作業自動化のニーズが急速に高まっています。Mechの導入によって、トラックドライバーや作業者の負担軽減、省人化が期待されます。すでに国際的物流企業の現場で実証実験も進行中です。
8軸ロボットアームで狭小空間の荷積みを実現
川崎重工が開発したMech向けロボットアームは、従来の産業用ロボットアーム(6軸)を超える8軸構成。これにより、トラックの狭い荷室内でも最大限の動作範囲と高い自由度を確保しています。さらに、荷積み作業に必要な強度を維持しつつ、軽量・スリム化も実現。1台あたり最大30kgの可搬質量を誇ります。
AI連携で効率的・安全な積載を自動化
Dexterityの高度なAI技術と組み合わせることで、荷物の大きさや重さを認識し、異なるサイズの荷物を効率よく積載。荷室の隅々までスペースを活用し、配送中の荷崩れを防ぐために荷重分散も自動で行います。従来ロボットでは難しかった多様な荷物への対応が可能になりました。
Dexterityとは――フィジカルAIのパイオニア
Dexterityは2017年創業、米カリフォルニア州レッドウッドシティに本拠を置くロボティクス企業です。物流・倉庫・サプライチェーン分野に特化し、AI搭載ロボットによる作業自動化ソリューションを開発・提供しています。主力技術は「フィジカルAI(Physical AI)」と呼ばれる独自のAI群で、ロボットに人間のような柔軟な動作や判断力を与え、従来は人手でしかできなかった荷積み・荷下ろし・パレット積み・仕分けなどの複雑な作業を自律的に実現します。
フィジカルAIとは
DexterityのフィジカルAIは、数百のAIエージェントが連携し、ロボットに「見る」「触れる」「考える」といった能力を持たせることで、現実世界の不確実な環境下でも安定した作業品質を実現します。AIの統合制御システム「Arbiter」により、AIの暴走やエラー、例外ケースを排除し、産業現場で求められる高い安全性と信頼性を担保しています。
このフィジカルAIにより、Dexterityのロボットは以下の特徴を持ちます。
- 混載・ランダムサイズの荷物にも対応し、トラックやコンテナ内で自在に動作
- 人間のような繊細な「触覚」と「視覚」による高精度なハンドリング
- 1人のオペレーターが10台以上のロボットを遠隔管理できる生産性
- 実運用現場での安全規格(RIA 15.06)準拠
今後の展開
今後は、川崎重工とDexterityが北米・アジア・欧州を含むグローバル市場での普及を目指し、日本国内でも住友商事との合弁会社を通じて本格展開される予定です。
フィジカルAIによる「現実世界で使える」ロボット自動化の時代が、いよいよ本格的に到来しています。