この記事の公開日は2023/5/26です。
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物流ロボットの一種である、ケースハンドリングロボット(ケースやオリコン単位での荷物の取り扱いを自動化するロボット)の「ACR」は、世界各国で導入事例が増えており、これから日本でも導入が進んで行く見込みです。今回はこのACRのパイオニアであり、数多くの導入実績を保有され、現時点でのグローバルでのマーケットリーダーと言えるであろう、HAI ROBOTICS(ハイ ロボティクス)社を特集したいと思います。
- 1 ACRについての振り返り
- 2 HAI ROBOTICSについて
- 3 インタビューにご協力くださった方々
- 4 インタビュー開始!HAI ROBOTICSのACRとはどんなものか?
- 5 HAI ROBOTICS ACRのグローバルでの導入状況
- 6 HAI ROBOTICSはケースハンドリングロボットACRのパイオニアでありリーダー
- 7 効率の高い、最適なワークステーションを自在に実現
- 8 ACRシステムをコントロールする頭脳、HAIQシステム
- 9 スマートかつ柔軟に、様々な要件を実現。痒い所に手が届く👍
- 10 中国の爆発的な物量を捌いてきた実績
- 11 日本での展開にも自信あり!同時に、グローバルでの更なる成長を左右する局面と言う緊張感も
- 12 要件定義の精度を徹底追及することで、導入プロジェクトを成功に導く
- 13 ACRの運用イメージを紹介
- 14 編集後記
ACRについての振り返り
先に、ACRについて簡単におさらいします。
もっと詳しい内容をご覧になりたい方は、以前にACRを特集した別記事をご覧ください。
トラロジでは、物流倉庫で利用される最新のロボットに大注目して独自に情報収集しています。今回はその中の一つ、ACRという物…
ACRとはAutonomous Case-handling Robotの略称で、自律走行してケースを扱う(=ケースハンドリングする)ロボットです。高層ラックにケースもしくはコンテナを保管して、それをACRが出し入れして運搬するGTP(Goods To Person)方式のソリューションです。保管効率と業務の生産性の両方を向上させられるため、土地代が高く、労働力不足も深刻な日本に適したソリューションとして、トラロジも期待しています🙌
ACRは次のような場合により高いパフォーマンスを発揮しやすいと考えられます。
- 荷物のサイズが、ケースそのものか、オリコンに収納できるバラ品。混在もOK
- 多品種、(出荷頻度が)中頻度、(出荷量が)小ロットのアイテム
HAI ROBOTICSについて
HAI ROBOTICSは2016年に設立された中国のロボットソリューション企業です。「世界の才能を結集して、ロボット技術で人類文明の進歩を推し進めよう」というミッションを掲げています。設立以来、特にACRの開発に注力されてきました。
2023年3月時点で次のようなステータスにあります。設立からわずか7年足らずで急速に世界展開していることがわかります😲
- 世界で30以上の国・地域に進出。
- 1,700名以上の従業員を抱える。
- 500以上のロボット導入プロジェクトを経験し、累計5,000台以上のロボットを提供
- 1,100以上の特許技術を保有。
- 中国の東莞と上海に工場を保有し供給体制を整備。東莞が主力で、18,000㎡を超える大型工場。
2021年には日本法人であるHAI ROBOTICS JAPANを設立しました。本社に併設のテクニカルセンターで、ACRのデモ見学も可能です。
ハイロボティクスジャパン テクニカルセンター
埼玉県入間郡三芳町竹間沢東 4-6
https://www.hairobotics.com/jp/technicalcenter
2023年3月には東京都港区に東京オフィスも設立されています。
インタビューにご協力くださった方々
HAI ROBOTICS JAPANから、インタビューにご協力くださった2名の方々を紹介します。ご協力ありがとうございます🙇️ ACRソリューションのデモを拝見しながらインタビューさせていただきました。
セールスディレクター 磯部 宗克さん
略歴
商業用不動産サービス会社のCBREで物流施設PMを経て物流施設の営業部に転属。そこで物流ロボットの存在を知り、2016年にボストンにある「Quiet Logistics」をプライベートで訪問しKIVAシステムやLOCUSのPOCを目の当たりにした。2017年から物流ロボットのインテグレーターであるGROUND株式会社に入社し、GTP(Butler)、AMR(PEER)の導入を担当。日本における物流ロボットの黎明期から講演等を行い物流ロボット業界の知名度と実績を積み上げていくことに貢献。
(物流およびロボティクスの経験が豊富な磯部さん。さわやかで物腰やわらかですが、ACRについての説明にはとても熱が籠っていて、自信をお持ちであることが伝わって来ました👍)
ソリューションデザイン部 マネージャー 龍 末言(ロン マツゲン)さん
略歴
2016年院卒後、住友重機械工業株式会社に入社。SE(システムエンジニア)として印刷、飲料、包材等の業界向けに物流ソリューションを計画し、その設計を担当した。
2019年からASRS、RDRV、ロボットアームなど多種類の物流設備を用いて、100インチモニター用偏光板製造ラインの全自動化物流を、日東電工様と共同で世界で初めて実現。日本と中国の偏光板業界へ向けてそのソリューション提供し、物流効率の大幅な改善に貢献した。その後、高密度保管のマジックラックや、より柔軟性の高いAMRを使用するソリューションの設計に従事。
2022年にHAI ROBOTICSへ加入。
(流暢な日本語の落ち着いた語り口で、ACRの構造や他のソリューションとの違い、またHAI ROBOTICSの特徴を、噛み砕いてすごくわかりやすく説明してくださいました🤩)
2023年のスマート物流EXPOの際に撮影された集合写真。磯部さんは後列左から3番目🤓、龍さんは前列左から3番目👍。
インタビュー開始!HAI ROBOTICSのACRとはどんなものか?
最初に、HAI ROBOTICSのACRとはどのようなものか、概要を教えていただけますか?
ではまず、HAI ROBOTICSのACRの概要から紹介します。ACRシステムは、次の5つの要素で構成されています。
ACRの本体です。アームの機能や形状、背の高さ、走行方式などにより7種類のロボットに分かれています。
ケース/コンテナを保管する高層ラックです。高さは5メートルくらいになることが多いですが、倉庫物件の条件が許せば10メートルにすることもできます。
ロボットが出し入れするケース/コンテナに対して作業員が作業する、ワークステーションです。コンベアやラックなどで構成されます。ワークステーションには様々なパターンがあり、ユーザのニーズに応じた柔軟な設計をすることができます。
複数のケース/コンテナを同時一括でロボットと受け渡しする「ハイポート」も、ハイステーションの一種としています。
ハイピック ロボットのための充電設備です。
ACRの仕組み全体を管理しコントロールするインテリジェントなソフトウェアです。
HAI ROBOTICS ACRのグローバルでの導入状況
では、現在までのグローバルでの展開状況を教えていただけますか?
導入先の業種は、アパレル、家電、精密機器、電子部品、自動車部品(タイヤ)、医薬品、日用品、書籍など多岐に渡っています。
HAI ROBOTICSはケースハンドリングロボットACRのパイオニアでありリーダー
そうですね・・・🤔
まず、ACRという物流ロボット、ケースハンドリングロボットを最初に開発したのが私たちHAI ROBOTICSです。それから世界各国で実績を積み重ねて、ソリューションをブラッシュアップしてきました。関連する特許も多数保有しており大きなアドバンテージになっています。その意味でHAI ROBOTICSは、ACRというカテゴリーを生み出して、そして確立したパイオニアであり、現時点ではリーダーと言ってもよいのではないかと思っています。
HAI ROBOTICSのACRは以下の3つを特に重視して、様々な機能を備えてきました。
・効率性
・柔軟性
・自律性
これらは、日本ならではのきめ細かな物流サービスと、その高い要求水準にもよくフィットするものだと思います。ACRを中核に、倉庫全体の生産性と保管効率をバランスよく向上し(効率性)、また業務内容の変化や業務量の繁閑にも柔軟に対応して(柔軟性)、高いパフォーマンスを発揮する仕組みを構築します。そして、独自のアルゴリズムを備えたAIによって、そのパフォーマンスを(人による分析や判断を必要とせず)自律的に維持することができます(自律性)。
ロボットの動作もスムーズで安定しており、これまでに提供したロボットはいずれも順調に稼働しています。特にアームの性能には自信がありますね。荷物の置き場所に少しくらいズレがあっても、問題なく取り扱うことができます。また、ROBODEXで展示したことがあり、日本のテクニカルセンターでも稼働しているHAIPICKは、荷物の大きさがバラバラでも、そのサイズを自動認識して、アームが幅を自動で補正して取り扱うことができるタイプです。これにより、荷物の大きさに応じて適正な保管スペースだけを割り当てることができるため、全体の保管効率をより高くすることができます。
他にはいかがでしょうか?
効率の高い、最適なワークステーションを自在に実現
パターン④の動画
パターン⑤の動画
パターン⑥の動画
バッファラックは、ロボットとコンベアラインの間で、荷物を一時的に保管する、その名の通りバッファとして設けるものです。ロボットからコンベアラインへの直接の受け渡しだと、一つのケース/コンテナについて作業員がピッキング等の一連の作業を終えるまでの間、ロボットは待っていなければなりません。一連の作業が完了してから、次のケース/コンテナに進むことができます。ロボットに待ち時間がある分、効率が下がってしまいます。
これを解消するのがバッファラックで、ロボットはまず全てのケース/コンテナを連続してバッファラックに投入してしまい、待機時間無しですぐワークステーションを離れて次の作業に移ります。作業員はバッファラックからケース/コンテナを取得して一連の作業を進めていきます。この時、作業員は一人とは限らず、複数人で同時に作業できるワークステーションをデザインすることも簡単にできます。
またこの間に並行して、次のロボットがバッファラックに新たなケース/コンテナを投入していくことができます。中間にバッファラックを置くことによって、ロボットにも作業員にも待ちによる時間ロスが無くなり、より効率よく作業を進めることができるというメリットがあります。
コンベアラインを長くして滞留できるケース/コンテナを増やす方法でも同じように効率は上げられるのですが、より省スペースなのがバッファラックの利点ですね。
これはあくまで一例ですが、このようなパターン、ノウハウが沢山あります。
別のロボット、例えばKIVAのような棚搬送AGVでは棚から物を取得するのが作業員になってしまうため、このバッファラックのような方法には向かなさそうですね。ロボットが自動でケース/コンテナを扱うことができるACRならではと感じました。
ハイポートが稼働する様子 ※この動画では6つのコンテナを同時に扱っている。
ACRシステムをコントロールする頭脳、HAIQシステム
・基幹システムやWMSなどの情報システムと連携
・倉庫の在庫データを、ACRの内外を含めて統合的に管理
・オーダーに基づいて、AIアルゴリズムを駆使して高効率な倉庫のプロセスを計画・実行。
状況に応じて動的に再構成
・ACR以外の機器(コンベアラインや、他のロボットなど)も統合的に、連携してコントロール。最大1,000台までの機器に対応可能。
スマートかつ柔軟に、様々な要件を実現。痒い所に手が届く👍
そうですね、色々なものがありますので・・・まず、荷主や商流といった大きなレベルの情報を管理するために、次のような機能があります。
◆荷主や商流の管理
【複数テナントの管理】
複数の荷主や商流、ブランドの荷物を、混在して管理することができる
【複数の流通チャネルや商流の管理】
店舗配送と宅配など、複数の流通チャネルを混在して管理することができる
◆在庫の最適なコントロール
【1コンテナへの複数SKUの混在保管】
1つのコンテナに複数のSKU(なるべく見た目の異なる物を組み合わせるよう推奨)を混在させて管理する。これによりサイズの小さなアイテム、少量のアイテムでも、コンテナへの充填率を高めて、保管効率を上げることができる。
【最適な入庫ロケーションの割当】
入庫時に、そのアイテムの過去の実績を基に、AIが出庫の頻度を分析して、倉庫全体としての生産性がもっとも高くなるよう入庫ロケーションを割り当てる。
【最適な出庫ロケーションの割当】
出庫時に、複数のケース/コンテナが必要だとすると、その瞬間の在庫およびロボットの配置から、もっとも早く出庫が完了する組み合わせをAIが即座に判断して割り当てる。
【ACRへの在庫の自動補充】
在庫のリザーブエリア(ACRの外で在庫を保管しているエリア)から、ACRの高層ラック(出荷の対象となるアクティブエリア)への補充を、AIが自動で判断して実行する。
なるほどー、では・・・絶対に記事には書きませんので、少しだけお話していただけないですかね?🤫
中国の爆発的な物量を捌いてきた実績
中国は、日本と比較してEC化率(小売に占めるEコマースの割合)がかなり高いですし(中国は40%超、日本は約10%で、中国が日本の4倍くらい)、日本にいらっしゃる観光客の「爆買い」にも見られるように、購買行動が凄まじい。繁忙期の注文の集中度合いは日本よりもずっと激しそうで、ACRはそれを捌くために活用されてきた実績があるのですよね?
日本での展開にも自信あり!同時に、グローバルでの更なる成長を左右する局面と言う緊張感も
ただ、自信がある一方で、日本は物流プロセスの品質の高さが世界でも有数であり、ユーザ企業の要求水準が非常に高いため、ここでしっかりと価値の高いソリューションを提供することができれば、その実績をまたグローバルに返し、今後更に成長することができる、そういう重要な局面であるという緊張感も併せ持っています。日本品質をまたグローバルに還元したいと考えています。
要件定義の精度を徹底追及することで、導入プロジェクトを成功に導く
なお、要件定義を徹底的にやると言っても、毎回毎回ゼロベースで検討して大きな労力をかける、ということにはなりません。色々なユーザに共通する部分、パターンのようなものはありますので、それをベースにしながら個別の要件に合わせてアレンジしていく、というようになります。
ACRの運用イメージを紹介
まず1つ目は、バラ品をACRで管理・保管し、ケース品をACR外で捌く、というパターンです。
小売り店舗向けと通販向けのバラ品をACRのワークステーションでピッキングして、t-Sortやオムニソーターのような仕分けロボットを使って仕分けします。小売り店舗向けのケース品は、ネステナーなどを活用した保管スペースに保管しておき、そこから直接ピッキングします。ACRへの在庫補充もこの保管スペースから行います。
t-Sortやオムニソーターなど、HAI ROBOTICS以外の製品も含めて、最適な組み合わせを設計し提案させていただきます。
t-Sort
オムニソーター
出展:Roboware HP
今回のHAI ROBOTICSの皆様へのインタビューは以上とさせていただきます。お忙しい中、ご協力ありがとうございました😄
編集後記
筆者は2年くらい前からACRに注目していて、高密度保管と高生産性を両立するコンセプトと、Autostoreなど他のロボットと比較して導入コストが小さくなりそうだということに期待を感じていました。ですが、これから導入が進んで行くであろうソリューションなので、それほど沢山の情報は得られておらず、もやっとした理解に留まっていました。
今回HAI ROBOTICSの磯部さん龍さんに様々なお話をお伺いすることができ、またデモもしっかり拝見して、ACRの特徴や強みを具体的に理解することができると共に、事前の期待がより高まることになりました🙌
海外では沢山の事例がありますし、それだけよく考えられていて、とても賢い仕組みだな、というのが一番の感想です。本文の最初の辺りにデモが見られるテクニカルセンターについても紹介しているので、ぜひ見学に行かれるとよいと思います。
ACRについては、また導入事例などを取材して読者の皆様にお届けしたいと思います。