アマゾンが革新的な物流ロボット「Vulcan(バルカン)」を新しく発表しました。小さな商品の棚入れや、棚からのピッキングといった緻密な作業を実施できるロボットです。Vulcanとはギリシャ神話における「火と鍛冶の神」のことのようです。アマゾンで他に活用されている物流ロボットであるProteus(海神)やTitan(巨人神)、Hercules(半神半人の英雄)と同じ系統のネーミングですね。
画像はVulcanがラックから荷物をピッキングする様子です。
出展:アマゾン
アマゾンの物流ロボットVulcanの革新性
触覚を備えることで飛躍的に能力を向上
Vulcanの何が革新的かというと、触覚を備えていることです。これまでの、物を把持して動かすタイプの物流ロボットは、基本的に視覚で物やその形状を識別していました。触覚を備えたVulcanはこれに加えて、次のようなことを認識できるようになります。
・物の素材(プラスチック、布、段ボールなど)
・物の質感(滑らか、粗いなど)
・物の硬さ、柔らかさ、変形しやすさ
・物をどれだけしっかりと把持できているか、バランス
画像は以下のCNBCのYoutube動画からの切り抜き(4:20あたり)ですが、ぬいぐるみを把持する際に柔らかさ、弾力を認識しているとされています。
触覚を通してこのような物理的な認識を加えることによって、より人間に近い、緻密な作業が可能となります。物が雑多に混在していて、物同士が触れ合うことの多い、いわゆるコンタクトリッチな(接触の多い)状況への対応能力が大きく向上します。
フィジカルAIによる学習で更なる能力向上
Vulcanの活用において不可欠なのがフィジカルAI(物理的な環境と相互に作用しながら、自律的に判断し行動するAIシステム)です。作業に伴う触覚からのフィードバックをフィジカルAIが学習して、作業の精度と信頼性を更に向上させたり、一連の作業をより効率的に処理するための物の配置を学習したりします。膨大な商品種類を扱うアマゾンなので、学習の幅広さとスピードも群を抜いたものになりそうです。
Vulcan Stow 棚入れを行うロボット
ここからロボットの具体的な紹介をします。まず、棚入れを行うロボット「Vulcan Stow」です。
アマゾンのラックは、靴箱大に仕切られて、その中に複数の荷物が混在しています。棚の前面には、荷物が落ちないよう半透明で伸縮する布が貼られています。ここにVulcan Stowが荷物を入れる様子がわかりやすく紹介された動画をご覧ください。前面の布を持ち上げ、元から入っていた荷物を脇に寄せてから、空いたスペースに新しい荷物を入れて行きます。
けっこうスムーズに作業していますよね😮アマゾンによると、平均的な作業員と比較すると、既にVulcan Stowの方が速く格納作業を処理できるそうです。物の認識と格納場所の判断はロボットであれば瞬時でしょうから、総合的には速くなるということだと思われます。
Vulcan Pick 棚からのピッキングを行うロボット
続いて、棚からのピッキングを行う「Vulcan Pick」を紹介します。
こちらもVulcan Pickが荷物をピッキングする様子がわかりやすく紹介された動画をご覧ください。前面の布を持ち上げて、対象物を把持してから、それを少し左右に揺すって、一緒に保管されている別商品を引きずらないよう、スペースを空けていることがわかります。そしてピッキングしたものを、下部のコンベヤ部分に流しています。
よくできた仕組みで、繊細な作業ですね👍アマゾンは以前からピッキングの自動化についてコンテストを行うなど、かなり注力して取り組んでいました。そういったノウハウが凝縮されているようです👏
物流ロボットの進歩は人の雇用を奪うのか、という議論に対するアマゾンの見解
アマゾンが新しいロボットを発表するといつも、ロボットによって人の仕事が代替され、雇用が減少するのではないかという議論が起きます。日本では今後の人手不足が深刻であるため自動化の推進は急務であり、もっとポジティブに受け止められると感じますが、グローバルではそうとも言えないようです。
これについてアマゾンは次のような見解を示しているので、最後に付記しておきます。なお正確な引用ではなく筆者が解釈して整理したものですのでご了承ください。
・完全な自動化は技術的にも経済的にも不可能で、人による作業は残る。
・物流ロボットは人の作業の効率性や安全性、また負担軽減をサポートし、人と協業および分業するためにある。
・物流ロボットの活用が広がることで、その保守エンジニアリングなど新しい(そしておそらくより報酬の大きい)職種とその雇用も多数生まれている。また、アマゾンではそういった職種へのキャリアチェンジを支援する研修プログラムも提供している。
関連/参考リンク
アマゾンによるVulcanのニュースリリース(英語)
https://www.aboutamazon.com/news/operations/amazon-vulcan-robot-pick-stow-touch
IEEE Spectrum Vulcan Stowの紹介記事(英語)
https://spectrum.ieee.org/amazon-stowing-robots
IEEE Spectrum Vulcan Pickの紹介記事(英語)
https://spectrum.ieee.org/amazon-robotics-vulcan-warehouse-picking
アマゾンの倉庫での人とロボットとの協調について紹介した記事もぜひご覧ください。
海外のサイト(Daily Express USなど)で、Amazonの物流センターにおいて人と物流ロボットが協調して働く様子が紹介されていましたので、簡単に要約して紹介しつつ少し考察も加えたいと思います。 こちらが元の記事のリンクです。 […]