トラロジでは、物流DXで注目されるソリューションのひとつである物流ロボットについて様々取り上げています。先日の別記事(物流倉庫で活躍する最新の物流ロボットをご紹介 ~②出荷編(ピッキング(ピースピッキング)~)ではピッキング作業を支援するロボットを幅広く特集し、そのひとつとしてピッキングアシストAMRを紹介しました。今回はこのピッキングアシストAMRについて更に掘り下げたいと思います。他のロボットソリューションと比較してより小さな投資で、生産性改善の効果が期待されるということで導入事例が増えてきている、その現状を考察します。
情報量が多くなるため、前編と後編の2回に分けてお届けします。今回の前編では次の内容を扱います。
・ピッキングアシストAMRとはどのようなものかという定義
・現在までの市場の状況
・主要なソリューション
・他の物流ロボットとの違い
なお後編では、ピッキングアシストAMRを活用することで具体的にどのようなメリットが得られるかをわかりやすく整理したいと思います。また、メリットと投資額とのバランスについても言及します。
アナログで行われていた業務から、ピッキングアシストAMRを活用することで具体的にどのようなメリットが生まれるかを考察して…
AMRとは、ピッキングアシストAMRとは
AMRはAutonomous Mobile Robotの略称で、日本語に訳すと自律移動ロボットとなります。その名の通り、ロボット自身が自律的に移動するタイプです。
まずAGVと比較するのがわかりやすいかと思います。AGVはAutomatic Guided Vehicle、日本語に訳すと無人搬送車です。AGVは移動のためになんらかのガイド(床に張った磁器テープ、床/壁に張ったシール、レーザーなど)を必要とし、ガイドのある範囲でしか動けません。対してAMRは、地図情報を持ち、その中で自身の位置を把握し、さらにセンサーにより障害物も認識した上で、自律的にルートを判断して移動します。ロボット以外の物や人も同時に移動するような環境では、AGVでは対応が難しく、より高度な動きができるAMRが適します。
物流領域でのAMRの活用は、現在はピッキング領域がメインと考えられます。例えば物流領域でのAMRでシェア1位のラピュタロボティクスが提供する「PA-AMR」のPAは、Pick Assistの略です。棚が並ぶ中を作業者が歩いており、不規則に地面に置かれる物(段ボールや台車、脚立など)や棚から飛び出して保管される荷物もあるような環境では、それらの中でも効率的に通行可能なルートを自律的に判断して移動することができるAMRが活躍します。人との協調、協働が安全にできることから、AMRは協働型ロボットと呼ばれることもあります。
この記事ではこの後、ピッキングを支援するAMR、そのままの表現になりますが「ピッキングアシストAMR」について詳しく紹介していきたいと思います。なお、ピッキングの逆とも言える、商品の棚入れ業務では現在でもAMRは活用可能ですし、今後はフォークリフトとの協調などAMRの活用領域は広がっていくものと思われます。
画像:ラピュタロボティクス社より提供
日本でのピッキングアシストAMRの導入状況
2022年時点でピッキングアシストAMRのソリューションに注力して展開している企業は4、5社くらいと思われます(同じソリューションを代理店的に展開している企業は除いています。また、事業を開始したばかりで本格展開していないと思われる企業も除いています)。この次のパートで代表的なソリューションを挙げて紹介します。
ピッキング支援AMRの導入が、複数のメーカーにより本格的に展開されたのが、おそらく2020年頃。3年目の2022年末時点で、導入済みのユーザー企業はおそらく数十社で、筆者の感覚ですが50社前後くらいではないかと思います。大手企業だけではなく中規模以下のユーザーでも導入が決まってきており、裾野が広がって導入ペースは今後さらに上がっていくと思われます。
主要なソリューション
ピッキングアシストAMRの主要なソリューションを概観します。先にも紹介した別記事に既に詳しく紹介していますので、ここでは簡単な紹介に留めさせていただきます。本記事では後編でこれらAMRソリューションのメリットを深く考察することに主眼を置きたいため、そちらをお楽しみいただきたいと思います。
ラピュタPA-AMR(ラピュタロボティクス)


ラピュタロボティクスはピッキングアシストAMRの最大手です。AMRの導入検討をする場合に必ず相談したい先のひとつですね。筆者がラピュタロボティクスのピッキングアシストAMRを初めて見たのは2021年でしたが、初めて見た時は、動作のスムーズさとスピード感、安全性への配慮が行き届いていること、画面表示も非常にわかりやすくて人に優しいことなどが、事前の予想を大きく超えており本当に感心したことをよく覚えています。一緒に見た人たちも口々に「賢いなぁ」というようなことをおっしゃっていて、十分に実用性が高いと直感されている様子でした。
FlexComet、FlexSwift(シリウス)
出展:シリウス ホームページ
シリウスは中国のロボットメーカーです。中国での実績を引っ提げて、ロボットをサブスクで貸し出すRaas(Robotics as a Service)モデルをいち早く展開するなど、日本国内でもピッキングアシストAMRの活用を推進しています。
PEER(グラウンド)
グラウンド(GROUND Inc.)は日本の、ロボットやWES(Warehouse Execution System)など最新テクノロジーに強みを持つ物流ソリューションプロバイダーです。「PEER」と、RFIDに対応したタイプの「PEER SpeeMa+™」というピッキングアシストAMRを提供しています。
Locus Robotics
Locus Roboticsは米国発の物流倉庫向けロボティクス企業で、グローバルではAMRのリーディングカンパニーの一つです。「LocusBots」というAMRを提供しています。日本では2023年1月に初進出するというリリースがありました。
AIピッキングカート(テラオカ)
出展:テラオカ ホームページ
テラオカは、強みである“計測”を活かしてピッキング時に重量検品を行う機能を備えたピッキングアシストAMR「AIピッキングカート」を提供しています。
ピッキングアシストAMRと他のロボットソリューションの比較
ピッキングアシストAMRは「ピッキング用搬送ロボット」のトップバッター
ピッキング業務で活躍する物流ロボットを調査し網羅的にまとめた以前の記事(物流倉庫で活躍する最新の物流ロボットをご紹介 ~②出荷編(ピッキング(ピースピッキング)~)において、「ピッキング用搬送ロボット」(トラロジ独自の分類)を6つのタイプに分類することを試みました。AMRはその内のタイプ①、トップバッターとして取り上げています。人中心のピッキング業務と比較して生産性の向上が期待できるのはどれも共通で、他にはロケの最適化の手法や荷物の保管効率、また導入コストなどの観点でそれぞれに違いがあります。この中でピッキングアシストAMRの大きな特徴は2つで、(1)導入コストが(他の物流ロボットと比較して)相対的に小さいこと、(2)簡単に導入ができる(業務への影響が小さい、短期間で済む)こと、です。
ピッキングアシストAMRの特徴 (1)導入コストが相対的に小さい
後ほど詳しく説明しますが、他のロボットが人の歩行距離をゼロにしようというコンセプトであるのに対して、ピッキングアシストAMRは人とロボットが協調して動作することで、人の移動距離を大きく“減らす”ことをコンセプトしています。ロボットも小型で機敏なものとなり、他の大掛かりなロボット(タイプ②~⑥)と比較すると導入コストが小さくなります。また、ピッキングアシストAMRは荷物を保管するラックの間を走行するもので、一般的なラックであれば基本的にはどのようなものにも対応するため、ユーザーは既存のラック設備を活用することができます。専用のラック設備が不要である点も、他のタイプのロボットと比較してコストを抑えやすい要因となります。
ピッキングアシストAMRの特徴 (2)簡単に導入ができる(業務への影響が小さい、短期間で済む)
既存のラック設備をそのまま活用することもできるため、今と同じ倉庫でそのまま業務を継続しながらピッキングアシストAMRを導入することができます。ピッキングアシストAMRを現場にセットアップするための期間も、短ければ1ヶ月程度とされます。他にネットワークやインフラの工事も必要ですが、これはピッキングアシストAMRをセットアップするよりも前のタイミングで、現場業務に影響を与えることなく実施することが可能です。
対して、他のタイプのロボットでは、より大掛かりな設備変更や工事を伴うことから、工事期間は長くなり、現場の業務継続に与える影響も長くなります。既存の物流センターの設備変更としてロボットを導入するよりは、新設する物流センターに導入するケースの方が多くなると考えられます。
2022年の春頃に、ピッキングアシストAMRのベンダーであるラピュタロボティクス社の方にうかがったところ、同社への引合では既存センターと新設センターの割合が大体半々くらいであるとのことでした。
小~中規模のクイックな改善策、そしてロボット活用の入り口として“アリ”
導入コストが小さく簡単に導入できるピッキングアシストAMRは、クイックな改善策のひとつとして有力な選択肢と考えられます。他に、より大きな生産性改善の効果を期待できるロボットもありますが、投資額も大きく、導入に踏み切ることができるユーザーは現時点ではより限られてくるかと思います。ピッキングアシストAMRは、ロボットの活用に踏み切りたい、そうしたDXの入り口としてもアリかもしれません。
今回の記事、ピッキングアシストAMR特集の前編では、普及の進む物流ロボットの一種として定着してきた感のあるピッキングアシストAMRについて、その定義や概況をお伝えしました。後編では具体的なメリットについてより詳しく考察していきたいと思います。そちらも是非あわせてご覧ください。
アナログで行われていた業務から、ピッキングアシストAMRを活用することで具体的にどのようなメリットが生まれるかを考察して…